JALのチャットボット「マカナちゃん」に学ぶ、AI活用の“肌感覚”:「小さく始めて大きく育てる」(2/2 ページ)
「AI Business Forum」で開催された講演に、日本航空Web販売部の岡本昂之主任が登壇。ビジネスへのAI活用を成功させるためのコツについて語った。
ユーザー層を限定してスモールスタート
サービスの内容は、コールセンターに蓄積された問い合わせ情報を生かせるFAQ(よくある質問への回答)とした。ターゲットとする顧客を「ハワイ旅行を検討している赤ちゃん連れの家族」に絞り、「機内で赤ちゃんが泣いた場合の対処法は?」「現地でベビーカーをレンタルできますか?」といった質問に回答するものに決めた。
こうした経緯で生み出されたのが、Watsonを活用したチャットボットサービス、マカナちゃんだ。開発に要した期間は16年6月〜11月の5カ月間。コールセンターから収集した1000件の質問と、それに対する100件の質問をWatsonに学習させ、開発を始めてから半年後、16年12月にリリースした。
「ユーザーのペルソナを絞り込んだことが開発にスピード感を生んだ。サービスの規模に合わせて、『すごいサービスができました!』というトーンではなく『ちょっと使ってみてよ』というトーンで発表した」
サービスの提供期間は17年1月までと短期間だったが、提供中はユーザーとマカナちゃんのやりとりを蓄積してWatsonを教育し、より幅広い質問に対応できるようにした。
その結果、未学習の質問に対する正答率が約6%向上。学習済みのものを含めると、約5000パターンもの言い回しに対応できるようになった。ユーザーの満足度は7割以上が「満足した」で、「不満」は17%にとどまっていた。
「第1弾のサービスはユーザーに親しみを持って使っていただくことができ、ビジネスとしての実用レベルに達していることが分かった。ただ、いつまでも実証実験をやっているわけにはいかないため、本格導入に向けてすぐさま改良に取り組んだ」
そこで、17年5月から第2弾の開発に着手。対象範囲を「ハワイ旅行を検討している全ての人」に広げ、7月末からサービスを開始した。
TripAdvisorやSNSとの連携で充実度向上
第2弾の特徴は、コールセンターの問い合わせ情報だけでなく、米TripAdvisorが手掛ける旅行口コミサイト「TripAdvisor」と連携したことだ。飲食店などの情報をWatsonに学習させることで、ハワイ旅行中のユーザーが旅先で「○○が食べたい」などと話しかけると、適切な店舗を「マカナちゃんのおすすめ」として列挙できるようにした。
TwitterやFacebookのアカウントでのログインにも対応。ユーザーがSNSログインを許可した場合、Watsonが過去のテキストでの投稿を読み込み、価値観やニーズを分析。結果に応じてマカナちゃんが「慎重派」「計画派」「楽天家」――など9タイプに変身し、タイプによって提供する情報や会話の内容が変化する仕組みを設けた。
「第2弾は単なるFAQにとどまらず、ユーザー個人のニーズに応えることにフォーカスした。その結果、月間利用者数は第1弾の2.5倍に成長。SNSログイン率も40%以上と高かった。ハワイ旅行に行かない人が興味を持って利用するというケースもみられ、一定の成果が得られた」
今後はさらにアップデートを加え、第3弾を年内にも提供する予定だ。「詳しくは話せないが、画像認識技術を導入し、写真や画像を活用したコミュニケーションに対応する。『Instagram』の人気ぶりを踏まえたサービスだ」という。
AIには強みと弱みがある
当初は「AIの“肌感覚”が分からなかった」という岡本主任だが、約1年間にわたってマカナちゃん開発プロジェクトに従事したことで、AIのビジネス活用に対する認識はどう変わったのだろうか。
岡本主任は「AIには強みと弱みがあることが分かった。Watson単体ではサービス内容の充実が難しい面もあったが、外部のサービスと連携することで価値を最大化できた。今後はJALの顧客情報などとの連携も視野に入れ、より顧客満足の高いサービスの開発を目指したい」と説明する。
「現段階では一連の取り組みに手応えを感じている。これからも楽しみながらマカナちゃんを育てていきたい」と話している。
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