ツインバード工業社長、V字回復までの“苦悩”を語る:赤字から躍進へ(5/5 ページ)
ヒット商品を多数生み出し、業績を伸ばしているツインバード工業。しかし、2000年代初期には5期連続赤字の苦境に陥り、会社は倒産寸前だったという。その時、リーダーはどう振る舞ったのか。同社の野水重明社長に聞いた。
「潜在的ニーズを捉える組織」に
彼が打った一手は、開発体制の一新だった。ブランドプロミスを「一緒に、つくる。お客様と。」と定め、これを実行に移したのだ。具体的には、SNSを使い、時にはイベントを行い、開発陣、企画陣と顧客との接点を数多く設定した。その上で、こんなことを社員に語りかけた。
「お客様が『欲しい』とおっしゃるものをそのままつくって売れるほど、この業界は甘くありません。顕在化しているニーズは、既に誰かが実現しているはずです。ならばお客様の潜在的なニーズを探って、圧倒的な技術力とデザイン力でユーザーがあっと驚く商品をつくりませんか!」
潜在的なニーズを見抜くカンは「言われたことをやっていればいい」と考える社員には、絶対に持つことはできない。「美しい」デザインを創造するセンスも同じだ。野水社長は結局、人を信じたのだ。そして「カリスマ経営」の真逆にある「社員全員での開発体制」を構築しようと考えていたのだ。
ここからツインバード工業は、次々とヒット商品を出していく。例えば、人気のブランパン(小麦の外皮が主原料の低糖質パン)が家庭で焼ける「ブランパン対応ホームベーカリー」。頭の筋肉をほぐし、フェイスラインをすっきりさせるヘッドケア機「セレブリフト」。世界に誇る金属加工の街・燕三条の技術力を生かした、オブジェとしても美しい360度首が回転する扇風機「ピルエット」などだ。
しかも、この流れで生まれたツインバード工業の「夏フェス」(地域、ユーザーとの交流の場)では、2回目の今年、2000人を超える人が訪れる地元の名物行事となった。そこで社員がお客とふれあい、刺激を受け、新商品の発案へと結び付けていく。これで業績が伸びないわけがない。
しかし、そんな野水社長だからこそか、彼は自分を誇ろうとしない。聞き終えると、彼はこんな話をするではないか。
「とはいえ、これ、自分の力じゃないと思うんです。例えば赤字の時期、小売店の方が『野水さんの元気な姿を見ただけで安心しましたよ』とおっしゃってくれたり、大手メーカーの技術者の方が『お金じゃない、自分がいいと思うものをつくりたいんです』と当社に来て下さったり。こういった方たちがいなければ、私は何もできませんでしたよ」
ならば、これらを呼び込んだ「人を信じる姿」こそが、トップにふさわしい振る舞いだったのかもしれない。
著者プロフィール
夏目人生法則
1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。現在は業務提携コンサルタントとして異業種の企業を結びつけ、新商品/新サービスの開発も行う。著書は『掟破りの成功法則』(PHP研究所)、『ニッポン「もの物語」』(講談社)など多数。
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