ツインバード工業社長、V字回復までの“苦悩”を語る:赤字から躍進へ(4/5 ページ)
ヒット商品を多数生み出し、業績を伸ばしているツインバード工業。しかし、2000年代初期には5期連続赤字の苦境に陥り、会社は倒産寸前だったという。その時、リーダーはどう振る舞ったのか。同社の野水重明社長に聞いた。
二羽の鳥が舞う日
人は、一生懸命働きたいか、できるだけ手を抜きたいか。実は多くの人間が、懸命に働きたいと思っている。マズローの五段階欲求説によれば、人間は安全、衣食住の充足、さらに「どこかに所属したい」という思いを持つという。その次が「認められたい」、最後が「自己実現」だ。すなわち、懸命に働いたほうが、自分の要求は満たされる。
不満がなく、自分の働きが正しく評価され、将来のビジョンが見えれば、人はけなげに、懸命に働くのだ。野水社長の改善の結果は、すぐ表面化したという。
「物流センターの改修後、なんと、驚くほど作業効率が上がったのです。仕事量は変わってないのに、4〜5人分、余力ができてしまいました。私はこのマンパワーをコールセンターに補充しました。当社のコールセンターはコスト削減の結果、電話がつながりにくくなっていたんです」
『ツインバード』の由来は『お客様の喜びが私たちの喜び』というものだった。だからマークに、二羽の鳥が空を舞う姿を描いていた。
「でも、当時はこれが“うそ”になっていました。お客さんの声を直接聞くコールセンターが、つながりにくかったわけですから。それでは社員が誇りを持てません。私は、自分に能力があるかは分かりませんが『うそをつかない』とだけは決めています。せっかく余力ができた人的リソースをコールセンターに使うのか、という批判もありましたが、そこは何とか周囲を説得し、コールセンターがワンコールで反応する率(受電率)を80%まで高めました。すると、スゴいことが起こったんです」
コールセンターの社員が自主的に、お客さんの声、悩み、要望を開発側にフィードバックし始めたのだ。開発陣は「売りっぱなし」だった商品の評価を耳にし、好評価は素直に喜び、顧客の悩みを改善しようと考え始めた。
並行して、野水社長は美術大学や技術系の大学院の研究室に出向き、自ら「20代の社員に商品開発を任せたい」と優秀な学生を口説いて入社させていた。また、優秀ながら大手メーカーから離れざるを得なくなった人たちも、三顧の礼で迎えていた。
そして、次の一手が業績改善の起爆剤となった。
関連記事
- 閉店に追い込まれた温浴施設が若者から大人気になった理由
若い女性に人気の温浴施設「おふろcafe utatane」――。実は4年前までは年配の男性客が中心で、しかも赤字続きのスーパー銭湯だったという。おふろcafe utataneを運営する温泉道場の山崎寿樹社長はどのようにして施設を改革したのか。 - 小さな定食屋に“お手伝い”が全国から集まる理由
東京・神保町にある小さな定食屋「未来食堂」。この未来食堂には年間で約450人もの“手伝いさん”が国内外からやって来るという。一体なぜなのか。オーナーの小林せかいさんに話を聞いた。 - 「ガリガリ君」の急成長と“大失敗”の舞台裏
1981年の発売以来、右肩上がりで販売本数を伸ばし続けてきたアイスキャンディー「ガリガリ君」――。年間販売本数をみると、2006年は約1億本だったが、2012年には4億本を超え、飛躍的に伸びている。どのようにして販売本数を伸ばしたのか。その仕掛けと、あの“大失敗”の裏側を同社のマーケティング部、萩原史雄部長に聞いた。 - “再び”「ポッキー」が急成長できた理由
横ばい状態が続いていた「ポッキー」の売り上げを5年間で50億円も伸ばしたチームリーダーがいる――。チョコレートマーケティング部の小林正典部長だ。彼はどのようにしてポッキーの売り上げを伸ばしたのだろうか。 - サイバーエージェント社長が明かす「新規事業論」
自ら事業を立ち上げ、会社を成長させていく起業家たち――。本連載では、そんな起業家たちの経営哲学に迫る。今回登場するのは、サイバーエージェントの創業社長、藤田晋氏だ。 - 藤田社長が「AbemaTV」に“ムキになる”理由
サイバーエージェントの藤田晋社長は、なぜ「AbemaTV」を立ち上げたのか。何を目指しているのか。前回に続いて、藤田社長の経営哲学に迫っていく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.