ツインバード工業社長、V字回復までの“苦悩”を語る:赤字から躍進へ(3/5 ページ)
ヒット商品を多数生み出し、業績を伸ばしているツインバード工業。しかし、2000年代初期には5期連続赤字の苦境に陥り、会社は倒産寸前だったという。その時、リーダーはどう振る舞ったのか。同社の野水重明社長に聞いた。
「詫び」が社員を立ち上がらせた
野水社長は、2011年に社長に就任する前から、周囲の経営者や、同社の経営状態を察して幹部になってくれた元銀行員など、さまざまな人物の助言を受け、火急にやるべきことを定めていた。
「社員に無記名アンケートを実施しました。『会社は好きですか?』『気持ちよく仕事できていますか?』さらには『問題点を指摘して下さい』という設問もありました。すると……」
出るわ出るわ。「社長はなぜ社員食堂で食事をしないのか?」「うちの商品には誇りが持てない」「物流センターは空調がないから冬は寒い」――。野水社長は素直に「なかには、そんなはずはない! と言いたくなるものもありましたよ」と話す。
しかし、実際に物流センターでの休憩風景をのぞきに行くとすぐ、「そんなはずはない!」という言葉は天に向けてはいたツバだと分かった。
「その日は寒く、外を歩くだけで手がかじかむような天気でした。そこで見たのは、物流センターの一部が風よけのために段ボールで覆われている光景でした。社員たちは業績を知っていたからか、今まで、こんな現状を言い出せなかったんですよ」
元銀行員の幹部が言った。彼は野水社長より年上で「お父さんにお世話になったから」と安定した身分を捨てて同社に入社した人物だった。そんな温かい人物が、じっと野水社長を見て、つぶやいた言葉は「言葉の礫」ともいうべき激しい檄だった。
「『社員の不満の解消は、全部やれよ』とおっしゃるのです。そして『みんなきっと、何も変わるものか、と冷めた気持ちでいるはず。今は、誰も会社の未来やオマエに期待なんかしてない。期待してもらいたいなら、もう分かるよね』と……」
野水社長は物流センターの大規模改修を決断した。コストは5000万円超、同社とって目が回るほどの金額だった。約3カ月をかけ改修を終えると、彼はあいさつの場で、社員に「お詫びがあります」と語り始めた。野水社長が振り返る。
「床も天井も、ピッカピカ、しかもエアカーテンで保温された空間で、社員の目が私を見ていました。私は、ひたすらに謝り、お願いしたんです。経営者としての能力が足りず、皆さんに多くの不満を持たせ、苦悩させていました。心からお詫びします。ここから当社は新たな船出を行うから、どうか力を貸して下さい、と言いました」
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