小田急電鉄の「戦略的ダイヤ改正」を読み解く:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
小田急電鉄は2018年3月のダイヤ改正を発表。4カ月も前に詳細を発表した背景には「4月から小田急沿線で新生活を始めてほしい」という意図がある。混雑緩和だけではなく、増収に結び付ける狙いだ。
沿線利用者にアピールする4ポイント
新しい小田急とは何か。その問いに答えるには、現在の小田急とは何かを認識する必要がある。鉄道ファンや沿線外の人々にとって、小田急のイメージはロマンスカーだ。ロマンスカーで行く箱根、江の島だ。ロマンスカーといえば先頭の展望席。だから、1996年に展望席を持たない30000形EXEが登場したとき、多くの人々が驚いた。
それはともかく、沿線に住まう人々、特に主要顧客である通勤、通学利用者にとって小田急は「混雑、遅い」だ。最も混雑する時間と区間において混雑率は192%。急行とは名ばかりで、新宿に近づくにつれて前方の列車との間隔が詰まってノロノロ運転だ。住環境は良い。家族は満足している。しかし、その家族を支える通勤者はつらい思いをしていた。
小田急電鉄も「混雑、遅い」を十分認識していた。複々線化でその両方が解消される。「いままでの小田急とは違います」「生まれ変わります」という意味を込めて「新しい小田急」という言葉を使った。よほど大きな変革がなければ「新しい」は使えない。今回のダイヤ改正は「新しい」にふさわしい内容だ。その自信が小田急にある。
ダイヤ改正のポイントは4つ。「列車の増発による混雑緩和」「速達列車の増強による所要時間短縮」「直通列車の増強で乗り換え回数を減少」「始発駅、始発列車の増強による着席機会の増加」だ。どれも複々線区間があるからこそ実現する。全長11.7キロにわたる複々線区間という、大手私鉄としては最も豪華な設備。その設備を最大限に活用した施策だ。これで「混雑、遅い」が「ゆったり、速い」に転じる。
しかし、小田急のもくろみはそれだけではない。現在、つらい思いをさせてしまっているお客さまに改善を約束しつつ、新規乗客の獲得も狙っている。その戦略性が最も目立つ部分が、多摩線と江ノ島線の施策だ。
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