「パラダイス文書」がまったく盛り上がらない、残念な理由:世界を読み解くニュース・サロン(3/5 ページ)
最近、「パラダイス文書」という情報暴露がニュースになった。世界中の企業や富裕層などがタックスヘイブン(租税回避地)にかかわっている、といった内容だが、いまひとつ盛り上がっていない。なぜかというと……。
出典はしっかりと言及すべき
そんな盗まれた大量の文書を商業メディアが暴露して金もうけをすることに倫理的な問題はないのかと思ってしまうが、少なくとも、ICIJをはじめとするこの情報を扱っているメディアは、まずその情報源をきちんと調査し、その結果も合わせて伝えるべきだろう。さもないと、ある強いイデオロギーをもった活動家のようなメディア関係者たちが、恣意(しい)的に好ましくないと思う企業から自分たちの主張に合うような情報を足の付きにくいハッキングなどで盗み出して、大々的に報じて問題化させる可能性だって考えられなくもない。さらにうがった見方をすれば、その背景に特定の企業や政府がいる可能性だって指摘できてしまう。
ただ筆者の見る限り、ICIJのサイトには情報が盗まれたとされている記述も、出元についての説明も見当たらない。少なくとも、パラダイス文書の特集記事の説明文や「Q&A」でも触れられていない。
ICIJのジャーナリストたちだって、批評的な目で物事を見るプロのジャーナリストとして、他のメディアが調査報道で大きなニュースを報じればその情報源やどう情報がメディアの手に渡ったのかを突っ込むはずだ。それを、アップルビー社のケースでもするべきではないかと思うのだ。それがないために、ICIJを懐疑的に見る向きが出ているのも理解できるし、説得力が落ちてしまうのもしょうがないと感じてしまう。
もっと言えば、ハッキングなどで盗まれた情報なら信ぴょう性も疑われる。事実、こんなケースがあった。16年に、反ロシアで知られる投資家ジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ財団がロシア政府系ハッカーに襲われて内部文書が盗まれたのだが、その文書が公表された時には、ソロスが反ロシア活動に関与しているかのように「修正」が施されていたと判明している。つまりロシア側は、ハッキングで盗んだ本物の文書を自分たちの有利になるように手を加え、捏造(ねつぞう)した文書をあたかも本物であるかのように公表していたのである。巧妙な「フェイクニュース」である。
ひとつはっきりしておきたいが、筆者はきちんと説得力のある形でリークや告発を報じるべきだと思っているのであって、リークや内部告発自体に懐疑的なのではない。メディアにとって重要な情報であることも重々承知している。だからこそ、出元にはしっかりと言及すべきだと思うのだ。ハッキングだったのなら、同時にその事実も「調査報道」すべきである。
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