「パラダイス文書」がまったく盛り上がらない、残念な理由:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
最近、「パラダイス文書」という情報暴露がニュースになった。世界中の企業や富裕層などがタックスヘイブン(租税回避地)にかかわっている、といった内容だが、いまひとつ盛り上がっていない。なぜかというと……。
このままでは「しらけて」しまう
ICIJのサイトにある「Q&A」には、「パラダイス文書に登場した人がすべてが租税回避や税金逃れに関与していると考えるべきか」との問いがあり、ICIJ側は「いいえ。オフィショアの各地に会社を作るのには合法的な理由があるかもしれない。多くは必要なら税当局に申告している」と答えている。
またエリザベス女王の名前が取りざたされた英国では、テリーザ・メイ首相も「オフショアで投資していることは、自動的に悪いことをしているこという意味ではない」と広報官を通して見解を発表している。
ただ、そうした見方は軽視され、今回のニュースのように名前を取りざたされた人たちは、「タックスヘイブンで税金逃れをしている」という悪いイメージを植え付けられてしまうのである。
タックスヘイブンの存在には賛否ある。議論になるイシューだけに、パナマ文書の際にも陰謀論が噴出した。米国が、タックスヘイブンに拠点を置く多国籍企業を米国に引っ張るべくタックスヘイブンを潰すような情報を暴露した、という話もあった。こうしたことからも、情報を世界的に暴露するICIJを中心とするメディアは、きちんと情報源にまでさかのぼってパラダイス文書が大々的に知らされるべき理由を明確にすべきではないだろうか。
さもないと、せっかくの重要な問題提起も現状のように「しらけて」盛り上がりに欠けるということになってしまいかねないのだ。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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