スーパーに産直売場 仕掛けたベンチャーの大変革がスゴイ:小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)
今、農産物直売所が好調で、市場規模は1兆円弱に達しているのをご存じだろうか。その一方で、従来のスーパーマーケットに対する消費者の不満は大きい。その穴を埋めるべく、あるベンチャーが仕掛けたのは……?
スーパーに対する消費者の不満
農林水産省の「6次産業化総合調査報告」(2015年)によれば、農産物直売所の市場規模は1兆円弱に達しており、農産物の一大流通チャネルとなっている。対前年比で16%程度増加しており、その規模は拡大傾向で推移してきた。全国的にこうした直売は消費者の支持を得られているようで、これからも直売ビジネスは広がっていく余地が大きいと言われている。
直売が伸びている背景を考えてみると、鮮度、価格、品ぞろえといった点で、消費者が既存の農産物流通ルートに対して不満を持っていることの裏返しであるということになる。それは現状に当てはめれば、主要チャネルであるスーパーの売場に消費者が満足していないことを示している。
スーパーとはざっくり言えば、多店舗展開することで規模の利益を確保し、効率化を推し進めることでコストダウンを実現し、結果として収益の極大化を図る組織である。その仕組みの中心にあるのがセルフサービスであり、基本的に店頭には販売員はいない。そして、コストダウンを長年かけて推進してきたスーパーは、その人員をさらに削減しつつ、大半をパート・アルバイトにシフトしてきた。結果として、スーパーの店舗には正社員が数人しかいないという状況が一般的になった。
ただ、スーパーで取り扱う商品の半分近くは「生もの」であり、その鮮度管理やロス管理(売れ残りは廃棄されるため損失となる)はかなり難易度が高い。昔ながらの生鮮専門店(八百屋、魚屋、肉屋)であれば、売れ残りそうな商品は適宜、値引きして叩き売ったり、頃合いを見て惣菜に加工したりして、売れ残りを極力減らすことができるのだが、こうした職人技をパート・アルバイトに要求することは相当ハードルが高い。
スーパーの売れ残り対策は、売れ筋や定番品に商品を絞り込むこと、確実に売れる量しか置かないこと、といったことが一般的だ。これをどこのスーパーもやるのだから、スーパーの生鮮売場はどこも代わり映えのしない、面白みのない売場にならざるを得ない。そして、消費者の方も、満足していないが選択肢がないため、仕方がないものとしてあきらめているのが現状だろう。
その証拠に、最近では生き残った生鮮専門店が実は人気店となっている。首都圏の古くからの街には今でも元気な商店街が残っているが、そこには気を吐いている生鮮専門店が健在だ。こうした店は、周囲の競合はほとんどスーパーとなっているため、スーパーの売場に不満を持っている消費者を一手に集めて人気店となっていることが多い。変化のある売場と商品の説明、調理法の提案もあり、その上、価格的にもスーパーより安い、となれば人気が出るのも納得できる。こうした店に人が集まっているのを見ていると、スーパーが多くの個人店を淘汰してきたこれまでの経緯は、消費者の利益にはつながっていないのではとも思ってしまう。
スーパー側も最近では、消費者がこうした不満を持っていることに気付き始めている。生鮮売場に専門の職員を置いたり、POPによる商品説明を増やしたり、試食コーナー、レシピ提供コーナーを作ったりと、消費者の不満への対策を講じている企業が増えてきた。
かつては、弱い個人商店をスーパーが淘汰するという構図があったが、そうした時代はほぼ終わり、現在のスーパーのライバルは他社スーパーか、実力派の生き残り専門店となった。そうなると、スーパー同士の競争で差別化をアピールできない店が淘汰されることになるため、これまでのような代わり映えのしない売場では生存は難しくなっていくのである。
消費者の不満への対応はコスト増を伴うことが多いため、そう簡単には改善できるわけではない。ただ、企業努力を続けることによって徐々に改善の方向に進むのであれば、消費者にとっては歓迎すべき傾向だとは思う。インフラが盤石な大企業グループは別として、生鮮専門店のテイストを復活できたスーパーが、支持を得ると個人的には思っている。
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