スーパーに産直売場 仕掛けたベンチャーの大変革がスゴイ:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
今、農産物直売所が好調で、市場規模は1兆円弱に達しているのをご存じだろうか。その一方で、従来のスーパーマーケットに対する消費者の不満は大きい。その穴を埋めるべく、あるベンチャーが仕掛けたのは……?
農産物物流の大変革
そうしたスーパー業界の状況を踏まえて、産直売場をスーパーの店舗内に展開している企業がある。農業総合研究所というベンチャー企業は、全国各地に集荷場を作り、生産者に出荷してもらった農産物を、主に首都圏、関西のスーパー店頭に移送する。
出荷された野菜は基本、翌日には店頭に届き、売場の運営はスーパー側が行うが、値決めは生産者が行う。いわゆる産直売場が店頭に置かれることになっている。このビジネスの肝は、実はこうした多くの参加者をつなぐIT情報網なのであるが、ビジネスモデルの詳細は省く。ぜひ同研究所のWebサイトなどでご確認いただきたい。
スーパーにこうした売場が求められるのは、まさに前述の消費者の不満の解消の一策となるからである。これまでのスーパーのやり方から見れば、かつてはベンチャー企業が受け入れられる余地はなかった。時代が少しずつ変わり始めているということを感じる。
さらに言えば、このベンチャー企業は、農産物物流の根本に関わる重要な変革の“タネ”をまいた。日本の農産物物流に、これまでほとんど存在していなかった、全国規模のコールドチェーンシステムを実現している、ということである。
日本の農産物のほとんどは、生産者→農協集荷場→トラック→卸売市場→スーパー配送センター→売場、というルートで消費者に届き、その間、数日を要するのが一般的だ。農産物は常温でこの数日を過ごすため、鮮度劣化が進むのが常識であった。最近ではトラックを冷蔵としているケースは多くなっているが、集荷場と卸売市場が基本的には常温であるため、どうしても鮮度劣化が進んでしまう。
この点で、国内農産物流通は、大規模農場とスーパー企業間で移送している米国のコールドチェーンに比べて鮮度管理に大きな格差があった(米国は畑の横に冷蔵車を横付けして、その後はすべての工程で冷蔵保管が基本)。このベンチャー企業が実現しているのは、国内原則翌日配送、集荷後冷蔵保存という体制であり、これは日数を考えれば、国土の広い米国コールドチェーン以上の鮮度が実現できることになる。
このような動きがどこまで国内のコールドチェーン化に影響を与えるかについては、現状ではよく分からない。ただ、こうした鮮度管理の農産物と、そうでないものに対する付加価値を評価するのは最終的には消費者である。実際に両者を食べ比べた人に聞くと、その日持ちや鮮度は素人でも差が分かるという。消費者にこうした鮮度の差が体感されるようになれば、きっとその判定は明確に下されるようになるだろう。そうなれば、コールチェーンを採用する企業が増え、徐々に国内農産物物流の主流になっていくかもしれない。
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