「忖度御膳」空振りのうわさから考える、ファミマの“迷い”:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
ファミリーマートが発売した「忖度御膳」の売れ行きが悪いのではないか? とネット上で話題になっている。もともと数量限定であり、販売不振が本当だとしても、同社にとって大きなダメージにはならないだろう。しかしながら今回の一件は、曲がり角を迎えたコンビニビジネスの現状を浮き彫りにしたという点で非常に興味深い。
セブンとファミマは次世代戦略において好対照
だが、あらゆる顧客層に対象を広げ、店舗数を増やした結果、コンビニ市場はほぼ飽和状態となった。今後も企業として成長を続けるためには、新しい顧客層を開拓するか、既存の顧客層を深掘りする必要がある。その点において、業界トップのセブン-イレブンと2位のファミリーマートのスタンスは好対照といってよい。
セブン-イレブンは創業以来、初となる本格的な店舗レイアウトの変更に乗り出す方針を掲げている。冷凍食品や総菜を大幅に拡充することで、これまでスーパーで買い物をしていた女性客を取り込む戦略である。イオングループのコンビニであるミニストップが成人向け雑誌の取り扱い中止を決めたのも同じ流れといってよい。高齢者や主婦層向けの商品ラインアップを拡充することで、売上高と単価の上昇を狙うシナリオである。
これに対してファミリーマートは異なる方向性を模索しているように見える。それはIT企業であるLINEとの提携や、ディスカウントストアであるドン・キホーテとの提携、コインランドリー事業への進出などからも伺い知ることができる。
一連の提携を見ると、ファミマが深掘りしたいと考えているのは若い世代の顧客層である。ドンキと共同開発したユニークな商品を並べ、LINEでキャンペーン情報を流し、コインランドリーの待ち時間に商品の購入を促すというシナリオに、主婦層や高齢者層はあまりマッチしない。
Twitterを使った今回の商品開発はこのシナリオに沿ったものかもしれないが、完成した商品は従来型シナリオ(高齢者、主婦層)との相性がよい。
現時点では高齢者の購買力が大きい事は明白であり、高齢者に訴求する従来型マーケティングを展開した方が効果は大きい。だが長期的に見た場合、新しい顧客層を開拓しないとコンビニは確実にじり貧になってしまう。現時点においてどこに軸足を置くのかは非常に難しい問題だ。
Twitterから生まれたという今回の限定商品が、顧客層の絞り込みにおける一種の「迷い」を示したものなら、それなりに納得できる話である。コンビニが置かれた複雑な状況を「忖度」するのが、この弁当の正しい味わい方かもしれない。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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