受動喫煙防止法の廃案が逆に飲食店を苦しめる?:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
厚生労働省が受動喫煙防止法案を骨抜きにする代替案の検討を開始するなど、同法案が事実上の廃案となる可能性が出てきた。飲食店の経営を守るというのが建前だが、一連の動きは、別な形で外食産業に影響を与える可能性がある。それはデリバリービジネスの急拡大である。
全ての話は密接につながっている
スマホが普及したことや、シェアリングエコノミーという概念が登場したこと、あるいはAI技術が進歩したことは、それぞれが独立した話であり、直接の関連性はない。
だが、新しい技術やサービスを背景にした一連の動きは、全て密接につながっていると考えた方がよい。つまり飲食のデリバリーへのシフトは単なる流行ではなく、構造的変化である可能性が高いということである。
もしそれが事実だと仮定した場合、受動喫煙防止法を事実上、廃案にしてしまうことは、従来型の外食産業に対して致命的な影響を与える可能性がある。
企業の経営は、現状と3年後、10年後を同時に考えなければならない。確かに一部の飲食店は、禁煙化することで顧客が減るかもしれない。だがそれはあくまで部分的な話であって、全体の動きとは異なる。
こうした飲食店の経営が立ち行かなくなることが問題なのであれば、むしろ一時的な支援策を講じるなどの措置を検討した方がずっと効果的である。
受動喫煙防止法の事実上の廃案という一種のガラパゴス的な決断が、新世代デリバリーサービスの普及を促すのであれば、それはそれで良いことかもしれないが、既存の飲食店が大打撃となるなら、これほど皮肉な話もないだろう
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
関連記事
- トヨタが販売車種を半数に絞る理由
トヨタ自動車が、国内で販売する車種を半分に削減する方針を固めた。同時に地域別の販売戦略を担当する新しい部署も立ち上げる。トップメーカーであるトヨタは戦後、一貫してフルラインアップの製品戦略を進めてきたが、今回の改革は、同社にとって極めて大きな転換点となる。 - 欧州で加速するEVシフト トヨタへの影響は?
スウェーデンの自動車メーカー、ボルボが内燃機関のみで走行する自動車の生産を段階的に廃止する計画を明らかにした。ほぼ同じタイミングで仏国のマクロン政権が2040年までに、内燃機関を搭載した自動車の販売を禁止する方針を表明している。欧州を震源地にEVへのシフトが一気に進む可能性が出てきた。 - 三菱UFJ「約1万人削減」 銀行員受難の時代がくる
銀行員が再び受難の時代を迎えようとしている。各行は低金利による収益低下とフィンテックの普及(異業種の参入)という2つの課題に直面しており、大幅なコスト削減が必至の状況だ。銀行業界は近い将来、大量の人員削減を余儀なくされる可能性が高いだろう。 - 「AIアナウンサー」年間1000円の衝撃
エフエム和歌山が「ナナコ」と名付けたAIアナウンサーの運用を始めている。年間で掛かる費用は1000円程度だという。さまざまなAI機能が安価で簡単に買える時代、ビジネスの現場では何が起こるのか。 - 将来稼ぐ力を予測する「AI融資」の狙いとは
ソフトバンクとみずほ銀行が、AIを活用した個人向けの融資サービス「AIスコア・レンディング」を展開している。同サービスでは、AIが利用者の「将来稼ぐ力」を分析し、適切な金利を決めているという。その狙いとは……。 - 吉田茂の愛車も登場! 名車の祭典「AUTOMOBILE COUNCIL 2016」開幕(写真34枚)
名車の祭典「AUTOMOBILE COUNCIL 2016」の様子を写真でお伝えする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.