なぜ人口3万人の田舎に全国から起業家が集まるのか:地方創生の若手リーダー(2/3 ページ)
人口約3万人の岩手県遠野市に15人もの起業家が全国から集まり、さまざまなプロジェクトを立ち上げている。プロジェクトの母体となっているのが、Next Commons Labという団体だ。なぜこれだけの起業家を地方に集められたのだろうか。
「局所的な取り組みでは、社会は何も変わらない」
林氏はもともと、NCLを立ち上げる前から高知県の土佐山などで地域活性のプロジェクトに取り組んでいたという。
「地方創生に関心があったわけではないけれど、資源が豊富な地方こそ、さまざまな挑戦ができる面白い環境だと思っていました。その地方がこのまま過疎化していくのはもったいない。若い人材、優秀な人材を呼び込めば地方は変わっていくだろうと考え、活動していました」
その後土佐山では、ゲストハウスの運営や独居老人を対象にした出張マッサージ、買い物代行サービスなどさまざまな事業が生まれ、人口も増えた。
一方で林氏は、地方での活動を約10年間続けてきた中で「“局所的”な取り組みでは、地方、そして社会の課題は何も変えられない」と、限界を感じたという。
「テクノロジーも進化しているし、政府や企業も課題解決に向け日々、取り組んでいます。しかし、なかなか前に進まない。東京一極集中、少子高齢化、過疎化――十数年前から言われてきた課題はずっと課題として残ったままです」
構造そのものにアプローチして、人材が集まる仕組みを作らなければ意味がない。そう考えるようになった林氏は、課題を抱えたそれぞれの地域に起業家を集めて、産業を生み出していくプラットフォームを構築する。それがNCLだっだ。
起業家を集める仕組みとは
NCLは、起業家を地方に集めるための環境をどのように構築しているのか。大きく分けると4つのポイントがある。
まず1つ目は「プロジェクトの見える化」だ。地域ごとに課題と活用できる資源を可視化し、どんなプロジェクトができるのかをNCLが提示する。起業家に丸投げせず、取り組むべき内容を明確にすることで「自分なら、このプロジェクトで力を発揮できるかも……」と、イメージできるようにして参加(起業)へのハードルを下げるのだ。
NCLがリサーチをして、その地域にいるプレイヤー(人材や企業)も可視化し、どうコラボすること何ができるのかも提示していく。
例えば、「遠野はホップの栽培面積が日本一。しかし、ホップ農家は減少傾向にある。農家たちと組んで、ホップの栽培だけでなくビールの醸造まで手掛け、遠野を『ビールの里』にしよう」――といった具合だ。
2つ目は、移住した起業家に対する3年間の生活保障。行政の「地域おこし協力隊制度」(地域外の人材を積極的に受け入れ、地域の経済力を向上させるための補助金制度)を起業家支援に転用した。事業資金とは別に、毎月約16万円程度の生活費が支給される。これによって、3年間はまずプロジェクトの推進に集中できるというわけだ。
3つ目は民間企業のサポート。収益化していくためのアドバイスなどを行い、事業化をサポートする。販路の確保や販促面などでも協力していく。現在、遠野で進めているクラフトビールのプロジェクトではキリンビールが、どぶろくのプロジェクトではロート製薬が参加している。
「NCLの起業家は企業の知見、ノウハウも得られるし、サポートする企業側は新しいビジネスの種を見つけることができる」
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