なぜ人口3万人の田舎に全国から起業家が集まるのか:地方創生の若手リーダー(3/3 ページ)
人口約3万人の岩手県遠野市に15人もの起業家が全国から集まり、さまざまなプロジェクトを立ち上げている。プロジェクトの母体となっているのが、Next Commons Labという団体だ。なぜこれだけの起業家を地方に集められたのだろうか。
流動人口を増やすことがカギ
4つ目は、NCLに集まった起業家たちのコミュニティー形成。遠野に集まった15人の起業家たちのプロジェクトはそれぞれ異なるが、NCLメンバーとして定期的に交流できる環境が作られている。そこで、お互いの進捗を共有し合い、手伝えることがあれば他のメンバーのプロジェクトにも関わっていくのだ。
林氏はこのコミュニティーこそが起業家を地方に集める上で最も重要なポイントだと説明する。
「地方で新しいことを始めようとする人たちが重要視しているのは『誰と何をするか』であり、仲間(コミュニティー)が欲しいと思っています。一緒に船をこいでいける仲間がいることをNCLが提供することで、不安を解消し、移住や参加のハードルを下げています」
「また地方に1人で乗り込むと、その文化に順応してしまい、いつの間にか“原住民化”してしまうんですよ。それで結局改革ができない。摩擦を起こすためにも起業家を支える仲間が必要なのです」
このNCLの構想段階から、いち早く参加を表明したのが遠野だったという。遠野では、83人の起業家(候補)からエントリーがあった。その中から選抜された15人が遠野に移住し、活動している。この他に、前述したように現在は8つの地域でNCLが横展開されている。
遠野のメンバーだけでなく、他の地域で活動するNCLメンバーとも活発に交流できるようにしていくという。その理由について林氏は「日本全体で人口が減っている中で、定住人口の取り合い、働き手の取り合いをしても意味がありません。大切なのは“流動的な人口”を増やしていくことだからです」と語る。
「二拠点生活でもいいし、数年ごとに住む場所を変えてもいい。定住前提でものを考えず、流動的になった方が交流が生まれ、新たな価値が生まれやすくなる。いかにこの偶発性を高めていくかが重要です」
複数のコミュニティーを持つ社会へ
林氏は2020年までに100以上の地域にNCLを横展開し、1000人の起業家創出を計画している。その先で目指すのは「複数のコミュニティーで生きていける社会の実現」だという。
「そもそも、所属するコミュニティーが少なかったり、または選べないという状況は不幸だと思います。まずは全国のNCLメンバー同士が緩くつながっていけるような仕組みをこれから作っていきたいと思っております。これが前例となって、複数のコミュニティー(地域)で働く、生活していくような社会の流れを作っていきたいですね。そうすれば、たとえ、定住人口が増えなくても地方に人やお金が流れていくようになるでしょう」
関連記事
- 起業家にベーシック・インカム 岩手県遠野市が実験導入
Next Commonsと岩手県遠野市は、起業家に対して「遠野市に住民票を移すこと」などを条件に3年間のベーシック・インカムを導入するプロジェクトを始める。 - “食べ物付き”情報誌が変えたい「消費者の意識」とは
食べ物が“付録”として付いてくる情報誌「食べる通信」――。生産者の情報を消費者に届けることが目的だ。発起人の高橋博之氏は、なぜこのような取り組みを始めたのか。 - 「起業=ハイリスク」はもう古い? “起業前提”の転職サービス登場
勤め人だけでなく、起業家にも働き方変革の波がきている。「自己破産」「再起不能」「ハイリスク」といった起業に対する“負のイメージ”は数年後には緩和されているかもしれない。 - 地方自治体が“副業限定”で人材募集 その狙いとは
広島県福山市は、同市の戦略顧問を「兼業・副業限定」で募集。想定以上の反響があり、395人から応募があったという。 - 廃止寸前から人気路線に復活した「五能線」 再生のカギは“全員野球”の組織
観光列車ブームの火付け役となった「五能線」――。実はもともと廃止寸前の赤字路線だった。五能線を観光路線として復活させたJR秋田支社の取り組みから、地方企業活性化のヒントを探る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.