「枡」だけで売り上げ4倍 伝統を守りながら伝える“面白さ”:枡なのに新しい(2/4 ページ)
岐阜県大垣市にある枡の専門メーカー、大橋量器は、ユニークな商品開発などの取り組みを経て、売り上げを伸ばした。日用品として使われることが少なくなった枡の需要をどのように拡大したのだろうか。
新商品提案は失敗続き
「ばかやろう」。新商品を試作し、初めて提案した店では、怒鳴られただけで終わった。大橋さんが考えたのは、「枡の形を変えて、おしゃれなものにできないか」。植物用の器を試作し、東京・代官山の盆栽レンタル店に持ち込んだ。自信をもって提案したものの、門前払い。返ってきたのは怒鳴り声だけだった。
その後も雑貨店に皿の形の枡を提案して回るものの、「だいたい断られた」。そんな中、1軒だけ興味を示してくれたところがあった。園芸雑貨の卸会社だった。赤と黒で装飾した皿が、正月用商材として採用された。展示会にも出品され、3000セットの注文が来た。
ところが、そこで気付く。「こんなに作れない」。通常の枡に加えて、色を塗る加工が必要な新商品を大量生産できるような体制ではなかった。当然、納期遅れを引き起こし、怒られる。そうすると、未熟な従業員が製作した粗悪品も出さないと案件はこなせない。そして、返品の嵐。新しい試みは大失敗に終わってしまう。
失敗の原因について、大橋さんは「強みではなく、弱みで勝負してしまった」と振り返る。きれいに色が塗ってあることが商品の特徴だったが、色塗りの技術を持っていたわけではない。それなのに、同じ品質のものを大量に作れるはずはなかった。
さすがに落胆し、自ら提案しに行くことはやめた。しかし、新しい販路は必要だ。そこで「特注の依頼を断らない」というやり方に切り替えた。もともと長方形などの特殊な形の注文はあったが、生産できる設備もないため断っていた。しかし、「手作業なら作れないことはない。『ノー』と言わないようにしよう」と依頼を受けるように。自らの手で、いろいろな形の枡を作っていった。
あるとき入った注文は、「八角形の枡を30個だけ作ってほしい」という、大分県の寺からの依頼。正八角形になる角度で木材を組んでいくのは相当難しい。さまざまな治具を作って製作に挑んだが、なかなかうまくいかなかった。納品直前、徹夜をして何とか完成させた。
そんなことを繰り返していくと、工場内にはいろいろな形の枡がたまっていく。「これを何かに使えないか」と考えた大橋さんは、アンテナショップを構えて「見せる」ことを思い付く。2005年10月、工場の隣に「枡工房ますや」と名付けた店を開いた。外部との接点となる、会社の「顔」を作ったことで、動きは変わり始める。
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