「枡」だけで売り上げ4倍 伝統を守りながら伝える“面白さ”:枡なのに新しい(3/4 ページ)
岐阜県大垣市にある枡の専門メーカー、大橋量器は、ユニークな商品開発などの取り組みを経て、売り上げを伸ばした。日用品として使われることが少なくなった枡の需要をどのように拡大したのだろうか。
店を起点にアイデアが集まる
店には定番の枡のほか、これまでに作った八角形の枡やストラップ、ランプなどを並べた。大橋さんは、枡の技術を見せることで、「大垣の産業を紹介する土産物店にもなる」と考えていた。考えた通りに、店は地元メディアなどで取り上げられ、話題になっていった。
その結果、店を起点として、外部との交流が生まれていった。他の業界やデザイナーなどとのコラボレーション商品や、客の要望に応じて開発した商品など、それまでとは比べものにならないスピードでいろいろなアイデアが生まれていく。
その1つが「マスソルト」だ。09年に名古屋で開催されたイベントで、デザインを学ぶ学生と共同開発した。手のひらサイズの枡の中にバスソルトを入れて、カモミールやローズ、ゆずなどのハーブを載せた。使うときは、枡ごと湯船に入れる。すると、ヒノキとハーブの香りが浴室に広がってくる。ヒノキ風呂のような感覚まで味わえる。枡の形は何も変えていないが、単なる容器を超えた使い方を実現。ロングセラー商品となっている。
一方、枡から大きく形を変えた商品もある。その1つが「エコ加湿器 マスト」。木材の吸水性を利用した加湿器だ。枡製造では、木材を薄く削ってつるつるにする必要があるため、大量のかんなくずが発生する。それを廃棄するのは「もったいない」と活用し、かんなくずをヨットの帆に見立てたデザインにした。ボート部分に入れた水を吸い上げ、ヒノキの香りとともに蒸発させる。
ITと融合した商品もある。LEDを内蔵し、傾けると光る「光枡(ひかります)」だ。印刷やITなど異業種3社とプロジェクトチームを結成して開発。薄暗い場所でお酒を飲むシーンを盛り上げる。スマートフォンアプリから、色を変えることもできる。クラウドファンディングで支援を募り、目標金額の150万円を達成した。
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