「枡」だけで売り上げ4倍 伝統を守りながら伝える“面白さ”:枡なのに新しい(4/4 ページ)
岐阜県大垣市にある枡の専門メーカー、大橋量器は、ユニークな商品開発などの取り組みを経て、売り上げを伸ばした。日用品として使われることが少なくなった枡の需要をどのように拡大したのだろうか。
売り上げを引き上げた意外な商品
ユニークな商品を出すたびに話題になり、大橋量器の知名度も上がっていった。しかし、すぐに売り上げに結び付いたわけではなかった。コラボ商品が増えていた09〜11年ごろでも、売り上げは1億円手前で伸び悩んでいた。「商品の情報はたくさん出るが、売り上げはくすぶっている」。もどかしい状態が続いた。
その状態から脱し、売り上げを伸ばすことができたきっかけは、意外にも、新商品ではなかった。目新しい商品ではなく、「昔からやってきた、主力の枡が売れるようになってきた」。それは、シンプルな1合枡(容量約180ミリリットル)、8勺枡(約140ミリリットル)、5勺枡(約90ミリリットル)。なぜ、ここに来て主力商品が売り上げ増加の原動力になったのか。
その理由は特別なことではない。これまで積み重ねてきた取り組みが、少しずつ成果として表れてきたのだ。「ユニークな商品を見て、枡に興味を持ってくれる人が増えました。新商品は、枡の世界に入ってきてもらうための窓口の役割を果たしてくれたのです」
ここ3年の売り上げは毎年10%ずつ伸びており、16年度は2億2000万円。入社したころと比べると4倍にまで増えた。
「もがいているときはコストがかさむのに、売り上げは付いてこない。赤字の年もあり、しんどい時期が続きました。でも、攻める姿勢は続けてきた。短い期間で結果を出すのは難しいですが、それを続けたことで結果が付いてきたのだと思います」
枡が“いとおしい”ものに
これからは、日本の枡が海外市場で受け入れられるような取り組みも加速させる。これまでも欧米の展示会に出品し、成功を収めてはいた。12年にはファッションブランド「ポール・スミス」の米ニューヨークの店舗で、色や柄を付けた「カラー枡」が販売され、注目を浴びた。しかし、取引が継続したわけではなかった。
「日本人には、枡の使い方や意味が自然と分かりますが、海外の人にとっては、ただの『美しい箱』にすぎません。最初は物珍しさで買ってくれても、飽きられてしまう。現地の生活に合った使い方を提案しなければいけません」。展示会に出品しながら、「使われる」商品づくりに挑んでいく。
長年、枡と向き合ってきた大橋さん。「昔は自社の商品を紹介するときに『時代遅れ』と言ってしまうこともありましたが、どんどん“いとおしい”ものになってきました」と笑う。伝統産業を守り、発展させるために必要なことは「チャレンジしかない」。「自社の技術と現代の生活様式を見比べて、何ができるか考える。そして、消費者に向けて、分かりやすく、面白く伝えていくことが必要だと思います」
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