ここが間違い! “本気”の働き方改革とは?:脱・昭和のビジネスモデル(2/2 ページ)
働き方改革を実現するためには何が必要だろうか。ITmedia ビジネスオンラインとITmedia エンタープライズ共催のセミナーイベントで、働き方改革の第一人者として知られる白河桃子氏が、本気で改革に取り組むための考え方などを語った。
まずはアクションを変える
それでも、新たに導入される残業上限規制によって「事業に支障が出る」と回答した企業が4割に上るなど、働き方改革への受け止めはまだ前向きとはいえない。白河氏は「働き方改革とは、経営者にビジネスモデルの変革を迫るもの」だと強調する。人口ボーナス期時代の昭和のビジネスモデルを改める必要性を指摘している。
そのことを認識していないと、小手先の取り組みに終始してしまう危険もある。実際、現場へのしわ寄せも起きている。「早く帰れ」という号令だけが飛び交い、サービス残業や持ち帰り残業が増加。若手社員が残業しないことで管理職がオーバーワークに。そして最も重要なのは、評価と報酬の再設計だ。労働時間による評価軸が変わらないと、「なぜ、生産性が高く短時間に結果を出した方が給料が安いのか?」という当然の疑問も出てくる。
一方、働き方改革を浸透させていくために、マインドセットとアクションチェンジのどちらが先か、という疑問に対しては「日本人にとっては、圧倒的にアクションチェンジ」だという面もある。横並びの意識が強いため、大義名分を決めることで、何をしていいか分からない人も巻き込むことができる。「今まで労働時間の終わりを考えたことがなかった」という人も多いが、終わる時間を決めることから始めれば、マインドも変わってくる。
このような取り組みによって長時間労働は変わるのだろうか。白河氏は「長時間労働の上限規制が目指すところは、禁煙や酔っぱらい運転などと同じ。変わらないと思っていることも、法改正と取り締まり、個人の意識、世論で変わっていくのです」と期待を込める。
IT活用が改革のポイント
長時間労働を是正したり、柔軟な働き方を実現したりするためのITツールについても紹介した。例えば、トラックの荷積み待ちを改善した荷積み予約アプリは、トラック運転手の働き方を変えた事例。以前は倉庫の前で寝ながら荷積みを待つことが多く、健康や安全の面で懸念があった。スマートフォンから荷積み予約ができるアプリを開発したことで、予約した時間に行けばすぐに荷積みができるようになり、業務が改善した。
オフィスでなくても仕事ができる柔軟な働き方もITで実現できる。しかし、働き過ぎを防ぐための上限も必要だ。いつでもどこでも仕事が追いかけてくるという状態にならないような労務管理が重要になる。
人工知能(AI)の活用も始まっている。かんぽ生命は、10年目のベテランがやっていた支払業務を1年目の新人でもできるように、経験を補うAIを導入した。
このように、ITによってテレワークや業務効率化などの効果を期待できるが、まだ「サボるんじゃないか」「ずるをするんじゃないか」という声もあるという。そんな声に対して、白河氏は、カルビーの松本晃会長から聞いたという言葉を紹介した。「サボっとる奴は会社でもサボっとるから同じだ」
生産性を上げる「心理的安心感」
働き方改革の目的として「生産性向上」が挙がることは多い。白河氏によると、それは「稼ぐ力」を高めること。つまり、新しいイノベーションによって付加価値の高い商品やサービスを生み出すことだ。
その稼ぐ力については、ドイツが日本よりも優れている。ドイツは日本よりも労働時間が2割も少ないのに、稼ぐ力は5割近く上回るという調査結果もある。ドイツは1日10時間以上働くと上司がポケットマネーで罰金を払うという仕組みもあり、長時間労働防止を徹底している。
では、稼ぐ力について、日本には何が足りないのだろうか。白河氏は「心理的安心感が職場にあるかどうか、だという研究がある」と引用している。なぜ心理的安心感があると生産性が高くなるのか。それは、イノベーションが発動しやすくなるからだ。アイデアを出してもつぶされてしまう、若手が発言しない、ワーキングマザーが参加できない時間に開かれる会議などがあると、多様性によるイノベーションは失われていく。
多様性はただあれば良いわけではない。さまざまな立場の人が職場で受け入れられていて、「ここでは何を言っても大丈夫」という安心感がなければ、多様性の持つ力を発揮できないのだ。
心理的安心感があると、「関係の質」の向上が起きる。ぎすぎすした職場には負のサイクルがある。対立や押しつけによって関係の質が低下すると、思考が受け身になり、創造性、自発性も低下し、成果も上がらない。一方、働き方改革によって関係の質が上がると、互いを尊重し、他の人のアイデアに「いいね」と言うようになる。すると、気付きが増え、自発的な行動が活発になり、成果も上がる。正のサイクルがある職場になる。
白河氏は、関係の質の向上にはチームで働き方改革、特に長時間労働是正に動くことが必要だと説く。なぜかというと、「労働時間差別による職場の“ぎすぎす”が見過ごせないものになっている」からだという。育児や介護で労働時間を削らなければいけない社員はどんどん増える一方、早く帰る人の仕事を他の人が引き受けなくてはならないことが不満になっている。「労働時間による“ぎすぎす”をなくすためにも、この問題から取り組んでいただきたい」
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