JR信越線で「15時間立ち往生」は、誰も悪くない:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
1月11日夜から12日朝までに発生したJR信越線の雪害立ち往生事件について、情報と所感を整理してみた。体調を崩した方は気の毒だったけれども、何よりも死者がなく、最悪の事態に至らなくて良かった。本件は豪雪災害である。人災ではない。今後に生かそう。
2時間前の列車と除雪車の位置
この時系列表から、今回の積雪が突発的かつ短時間で発生した様子が読み取れる。2度目の立ち往生発生の2時間前、午後7時頃、現場を他の電車が通過している。これは産経新聞の記事で見つけた。また、この少し前、新潟駅ではモーターカーが除雪作業を行っている。この情報は鉄道ファンのブログで見つけた。本線に支障がある場合は、この車両で除雪を行うところだ。午後7時の時点で、本線上の深刻な積雪は認知されていなかったとみられる。
つまり、現場付近では、約2時間で予想もつかないほどの積雪が発生した、と考えられる。
次に除雪車両の動きだ。記事では「車両センター」のことが報じられていない。新潟支社は信越本線の沿線に2つの車両センターを構えている。長岡と新潟だ。これはJR東日本新潟支社が伝えなかったか、記者が聞き漏らしたか、重要ではないと判断したか。しかし、それぞれのどちらで準備したかで話は変わってくる。
現場に近い車両センターは長岡だ。こちらにはディーゼル機関車タイプのラッセル車がある。現場から遠い新潟にはモーターカータイプのラッセル車がある。そしてディーゼル機関車とモーターカーでは扱いが異なる。ディーゼル機関車は列車として扱うため、臨時列車としてすぐに出庫できる。
しかし、モーターカーは正式には鉄道車両ではなく、保線用の機械だ。運転士の資格がいらないかわりに、通常は本線(営業用の線路)を走行できない。自動列車停止装置など安全設備がなく、車体が軽いなどの理由で線路上の信号機検知装置を作動できない。従って、モーターカーを本線で運行するためには、線路閉鎖といって、該当区間の機能を停止し、その区間に列車を進入できないように手配する。踏切なども動作しないから、安全のために警備員を配置する必要もある。
本来、モーターカーは夜間の保守点検などで限定的に運用される機械だ。今回、新潟から現地までモーターカーを走らせようとしたら、約50キロの区間を線路閉鎖し、安全を確保する。手間も人も必要だ。短時間では手配できない。ましてや今回は豪雪で道路もほぼまひしていた。
ならば、長岡車両センターのディーゼル機関車タイプを出動させればいい。近いし。ところが、ここでも問題がある。報道によれば、長岡と現地の間の見附駅で電車が立ち往生している。ダイヤが乱れているから臆測になるけれども、現地を2時間前に通過した列車ではなく、逆方向、新潟へ向かう列車ではないか。そうだとすると、長岡発のディーゼル機関車の前にいる。見附駅は線路2本で渡り線がないから、ディーゼル機関車はこの電車の前に出られない。複線だから隣の線路を走行できるけれど、そうなると進行方向の逆走となるから、やはり線路閉鎖が必要になる。
除雪車の到着に時間がかかった理由は、その出発点が新潟でも長岡でも、上記のような面倒な手順が必要だからと思われる。
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