JR信越線で「15時間立ち往生」は、誰も悪くない:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
1月11日夜から12日朝までに発生したJR信越線の雪害立ち往生事件について、情報と所感を整理してみた。体調を崩した方は気の毒だったけれども、何よりも死者がなく、最悪の事態に至らなくて良かった。本件は豪雪災害である。人災ではない。今後に生かそう。
報道映像が与える誤解
私はこの報道を1月12日朝のテレビニュースで知った。その映像に違和感があった。電車に閉じ込められた人がいる。全員が着席できない。立ったままの人もいてつらそうだ。そんな様子を間近で撮影している。「え、間近で?」 ならば電車に近づけるということではないか。なぜ助け出せないのか。
この映像を見てしまったら、JR東日本が意固地になって乗客を外に出さないような印象を受けた。実際、家族が迎えに来て脱出した人もいたと後で知った。また、家族が迎えに来ているにもかかわらず「JR東日本が乗客を外に出さない」ともめたという報道もあった。乗客を外に出さないという判断はどうか。
夜間であれば分かる。周囲の状況が見えなければ、この場所は闇の中だ。雪に腰まで埋もれたら、都市部でも動けずに遭難する。私は昨年、小樽で雪が積もった廃線跡の歩道を歩こうとして雪中の窪みに落ち、這い上がれないかと焦ったことがある。積雪をなめてはいけない。信越線立ち往生現場は用水路があり、もしそこに落ちたら死ぬかもしれない。
除雪車が近づいている状況なら、やはり外にいては危険だ。明るくなってからはどうだったか。撮影時はたまたま雪が止んだかもしれないけれど、吹雪いていれば視界はない。これはもう現地の状況が分からなければなんとも言えない。未成年者の家族が迎えに来たとして、それが家族本人だと誰が証明するのか。それは考えすぎだろうか。
除雪車が出庫し、いつ到着するか分からない。もし近づいていたら、迎えに来た家族も線路に近づいては危険だ。それが「車内に待機してもらいたい」という判断になったと思われる。JR東日本の除雪車の事情など、理解はできても納得はできないかもしれないけれど、今回は次善の策はなかったと理解するしかない。
本当のところは当事者による検証が必要だ。しかし、本件に関して、私はそこに誰の悪意もなかったと思う。乗客にももちろん罪はないし、現場の鉄道職員は、乗客を目的地まで送り届けたい、次の駅で列車を待っている人が凍えているかもしれない、そう思いながら、列車を走らせることに責任と誇りをもって仕事をしたはずだ。
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