JR信越線で「15時間立ち往生」は、誰も悪くない:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
1月11日夜から12日朝までに発生したJR信越線の雪害立ち往生事件について、情報と所感を整理してみた。体調を崩した方は気の毒だったけれども、何よりも死者がなく、最悪の事態に至らなくて良かった。本件は豪雪災害である。人災ではない。今後に生かそう。
「助けて」は恥ではない
悪意はなくても乗客をつらい目に遭わせてしまった。なぜなら、これは人間が予測できないほどの自然災害だからだ。人災ではない。責めを受けるべき人はいない。それよりも、同じことが起きたらどうするか。そこを考えた方がいい。雪に人を楽しませる魅力があるからといって、大雪、雪害をなめちゃダメだ。
あえて言えば、線路閉鎖のための踏切警備を警察に依頼するとか、自衛隊の除雪車を要請するとか、天候の状況次第だけど、ヘリで救出を依頼するなりの方法はあったかもしれない。しかし、JR東日本は自分たちで解決できると思ってしまった。それは悪意ではない。鉄道マンの誇りだと思う。ただし、大災害を前にして、誇りを捨てて助けを求める。それは決して恥ずべきことではない。これは理解してもらいたい。
本件で誰かを悪者にして責任を取らせるとすれば、今後、責任回避のために「羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」事態になりかねない。2013年2月6日に首都圏で起きた大混乱を記憶される方も多いだろう。首都圏で積雪10センチの予報に対して、JR東日本は事前に大幅な減便を実施したけれど、結果として予報は外れた。しかもJR東日本は減便を復旧できず、大混乱を招いた。(関連記事)
大雪で大混乱になるくらいなら、ちょっとでも雪が降ったら運休。雪が降りそうだから運休。確かにその方が無難だ。しかし、実際には運休しなくても済んだ、という事態になったら、それは人々を不幸にする。安全安心のための責任逃れが横行し、鉄道が不便な道具になっていく。責任を回避しようとする意識は悪意だ。それを恐れるべきだ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
関連記事
- 雪は降らなかったけど、JR東日本が間引き運転を決めた理由
2月6日、首都圏の朝のラッシュアワーは大混乱となった。前日からの「大雪・積雪予報」を受けて、JR東日本が通勤電車の間引き運転を実施したからだ。しかし、この処置は適切だったのか。コンピュータに頼りすぎた結果かもしれない。 - JR西日本、東急電鉄の事故から私たちが学ぶこと
JR西日本の新幹線車両台車破損、東急電鉄のケーブル火災から私たちが参考にできることもある。クルマの運行前点検とタコ足配線の見直しをした者だけが石を投げなさい。 - 電車が遅れたらカネを返せ、はアリか?
ちょっと前の話になるけれど、参議院議員が「電車の遅延度に応じて料金を割り引く制度を提案する」とツイートして失笑された。遅延へのいらだちはごもっとも。しかし、失笑された理由は「目先のカネで解決しよう」という浅ましさだ。 - 大規模災害を教訓に、貨物鉄道網の再整備を
赤字であっても鉄道が必要という自治体は多い。なぜなら道路だけでは緊急輸送に対応できないからだ。鉄道と道路で輸送路を二重化し、片方が不通になっても移動手段を確保したい。しかし全国の鉄道貨物輸送は短縮されたままになっている。 - 東京圏主要区間「混雑率200%未満」のウソ
お盆休みが終わり、帰省先から首都圏に人々が帰ってきた。満員の通勤通学電車も復活した。国も鉄道会社も混雑対策は手詰まり。そもそも混雑の認定基準が現状に見合っていないから、何をやっても成功できそうにない。その原因の1つが現状認識の誤りだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.