“個性”を食卓に届ける 会津の若者の思いを形にした「とろねぎ」:眠る食材をヒット商品に(3/4 ページ)
全国各地の食材を取り扱うインターネット通販サイト「うまいもんドットコム」「築地市場ドットコム」などを運営する食文化。取締役の井上真一さんは、産地で眠っている青果や水産物などを掘り起こし、ヒット商品を生み出してきた。
通常商品の2.5倍で仕入れる
雪下ネギを商品として生産できなかったのは、労力を使って収穫しても売れないからだ。それなら、付加価値を上乗せした、高い価格で販売すればいい。井上さんはこの雪下ネギを、通常の出荷品の2.5倍で仕入れることにした。「『訳あり品』として買われる場合と比べると、10倍ぐらいになるのでは」と見る。
雪下ネギの小売価格は1箱約3キロ入りで3500円(税込)に設定。「おいしいから売れる」と確信し、「とろねぎ」というブランド名を付けて商品化した。その味の特長は、豊かな甘さ。網の上でただ焼くだけでも、中から汁があふれ出してくる。鍋料理なら、他の野菜を入れずに、ネギが主役でも十分だという。
そのおいしさを的確に伝えるために力を入れたのは、とろねぎを「ブランド」として確立させることだ。Webサイトの特設ページは、佐藤さんの人となりを前面に打ち出した構成にした。商品の味よりも生産者をメインにする構成は「めったにやらない」という。「『なぜ、このネギを商品化したか』という部分に価値がある。佐藤さんと一緒に考えて、新しい価値のあるものができた。それを面白がってもらいたいのです」と井上さんは説明する。
また、商品にはブランドとしてのクオリティーが維持されなければならない。ブランドという認識を持って生産してもらえるように、佐藤さんとはコミュニケーションを密にしている。
とろねぎは、秋に収穫した極太ネギ、冬の雪下ネギ、春先の越冬ネギの3段階で商品展開。17年11月に本格的な販売を始めた。3カ月ですでに300〜400箱を販売。これは「ネギとしては、断トツの売れ行き」だという。
スーパーのネギより価格が高く、しかも箱売り。それでも多くの人に求められるのは、他にはない価値があるからだ。「(100点満点中)80点の商品はたくさんありますが、お客さんが買うのは1つ。点数を積み上げて、選ばれる1つになることが必要」と井上さんは言う。とろねぎの場合、「知っているようで知られていない、会津産の野菜」「佐藤さんという若手生産者のやる気」「雪下ネギという、自家用だった食べ方を商品化」といった点が差別化につながった。
「『おいしい』という感覚は、味覚だけでなく、視覚、嗅覚、そして気持ちが大きく影響します。楽しい気持ちで食べればおいしく感じるのです」。楽しい気持ちになれることが「食卓に並べる理由」になる。
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