両備グループ「抗議のためのバス廃止届」は得策か?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
岡山県でバスなどを運行する両備グループは、ドル箱路線に格安バスの参入を認めようとする国交省中国運輸局の決定に抗議して、赤字運行のバス路線31本を廃止すると発表した。その大胆な戦術に驚くけれども、その直後に参入を決定した中国運輸局もすごい。まるで「テロには屈しない」という姿勢そのものだ。
沿線利用者を人質にするなんて
両備グループの主張は、「黒字路線の利益がなければ赤字路線は維持できない。格安バスを認可するなら赤字路線は廃止します」だ。小嶋氏は「地域が困ることはしない」というけれども、むしろこんな理由で廃止を持ち出されたら地域は困るだろう。沿線の人々や自治体は対処のしようがない。
本気で廃止するといわれたら、自治体は金銭による運行支援、公営の代替交通整備の検討など次のステップへ進める。「廃止しないならいままで通り」とは言わないまでも、運行支援策、利用推進策を検討できる。
しかし「廃止するかしないかは行政の態度次第」では、どう対処すればいいのか。バス会社と歩調を合わせて行政へ申し入れたらいいのか。しかし、それで運行が確約されるわけでもなかろう。何しろ「行政の対応次第」である。そもそも両備グループは運輸部門の人手不足解消に向け、3月までに500人を採用するプロジェクトに約1億円を投じた。本気で廃止する気配がない。
廃止発表、正確には「廃止しちゃうぞ発表」の報道を受けて、国土交通省中国運輸局は当初「近く結論を出す予定」とコメントしていた(2月9日の日本経済新聞電子版より)。事実、八晃運輸の新路線の許可申請は17年3月末に出され、八晃運輸は17年10月開業を見込んでいた。実際には許可が保留されていた。ところが「廃止しちゃうぞ発表」の夜に、中国運輸局は唐突にめぐりん新路線を認可している。
小嶋氏は「なぜ急いだ競合会社の路線認可?」(公式サイトより)と疑問を呈しているけれども、これは行政から両備グループへの強い意志表示と解釈できる。行政は圧力に屈しない。もし「行政のやり方が不服だから国民を困らせる」という施策を認めたら、今後、行政と民間の公共事業の関係はどうなるだろうか。
航空業界では「行政がドル箱路線の羽田―札幌便に格安航空会社(LCC)の参入を認めるなら、赤字の地方便は廃止します」という主張も通ってしまう。電力業界で「都市部のみ新電力の参入を認めるなら、もう過疎地に電気を供給しません」という主張もアリになる。通信業界もしかり。JR東日本が「東京で大手私鉄の競合路線を認可するなら、東北のローカル線を廃止します」なんて言うだろうか。
給食会社が「いままで介護施設向け給食の黒字で学校給食の赤字を補填しました。介護施設向けだけの格安業者を認めるなら、学校給食から撤退します」となったらどうなるか。いや給食業界の仕組みは知らないけれども。交通業界に限らず、公共サービス事業のほとんどで、こんな主張が次から次へとまかり通ってしまう。そんなやり方は認められない。中国運輸局は、こうした流れを止めたともいえる。
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