両備グループ「抗議のためのバス廃止届」は得策か?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
岡山県でバスなどを運行する両備グループは、ドル箱路線に格安バスの参入を認めようとする国交省中国運輸局の決定に抗議して、赤字運行のバス路線31本を廃止すると発表した。その大胆な戦術に驚くけれども、その直後に参入を決定した中国運輸局もすごい。まるで「テロには屈しない」という姿勢そのものだ。
両備グループの戦術は矛盾している
そもそも公共事業について、黒字路線の利益で赤字路線を維持をするという枠組みは理にかなっているか。それは、小嶋代表が主張する「公設民営」の考え方と一致しない。近鉄内部線・八王子線について「鉄道が必要なら自治体が関与すべき」といったように、お得意の「公設民営」を自社路線にも提案すべきではないか。
黒字路線に新規事業者が参入して困るなら法的手段に訴えればいい。理由はどうあれ「赤字路線を維持できないから、民間企業としては廃止したい」と言えばいい。黒字路線の利益が脅かされる。赤字路線を維持したくない。2つの問題をくっつけて「国のやることが不服だから事業を縮小します」という言い分は駄々っ子のようだ。国に対して会社ぐるみでスト戦略を始めたようで滑稽ですらある。
どんなに主張が正しく、正しい権利を持っていたとしても、その主張が社会で認められない。そういう事例は海外にたくさんある。例えば民族、宗教を理由に多数派に虐げられる人々だ。訴える場所もなく、苦しい思いをしているだろうと思う。そこまでは多くの人々が共感できるけれども、だからといって、自らの苦しみを世間に知らしめるために、腹に爆弾を抱えて人混みで自爆するような行為は認められない。その戦術は社会から支持されない。解決の手段もなく、もどかしさが残るだけだ。
小嶋氏は公共交通を真剣に考え、救ってきた。前述のように、私はいままでの両備グループや小嶋氏の基本的な考え方は間違っていないと思うし、公設民営は正しいと思う。しかし、今回の「顧客を不安がらせて、行政から納得できる答えを引き出す」というやり方には違和感がある。ここまでこじれる前に、中鉄バスと07年に和解したように、八晃運輸と話し合っただろうか。
私は、今度ばかりは両備グループの戦術が間違っていると思う。日本は法治国家である。誰かを不安がらせるという戦術を使わなくて済む国ではないか。行政はこんなやり方に屈してはいけない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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