トヨタがいまさら低燃費エンジンを作る理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
トヨタは2021年までに19機種、37バリエーションものパワートレインの投入をアナウンスしている。内訳はエンジン系が9機種17バリエーション、トランスミッション10バリエーション、ハイブリッド系システム6機種10バリエーションと途方もない。なぜいまさらエンジンなのだろうか?
やって来たグローバル燃費試験時代
しかし、それにしてもあまりにも動きが大規模だと疑問を持つ鋭い人がいるだろう。その通り、それは燃費に関するルールが変わるからだ。新ルールの下では、今までの技術が通用しない。だからこそトヨタはこれだけ大規模な改革を進めるのである。
ルールの変更は大きく分けて2つある。1つは乗用車等の「国際調和燃費・排ガス試験方法」、通称「WLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)」で、従来のJC08モード燃費に代わる新しい燃費基準である。わが国では18年10月からの導入が決まっており、既に一部の車両ではJC08燃費と併せてカタログに記載されている。
クルマのようなグローバル商品に対して各国で燃費の測定方法がバラバラだと、それぞれに合わせた開発が必要になり、開発費が無意味にかさむ。さらに燃費規制の側面から捉えれば、国境を越えて移動するクルマの基準がそれぞれ違うのでは規制の意味も半減する。こうした理念によって、試験方法の一元化が企図され、WLTPが成立した。
WLTPの主な特徴は以下の通りである。
- 車両クラス分けの一元化
- 試験中の平均速度と要求加速度の上昇
- 積載重量想定の増加
- 測定時にエンジンが冷間スタートのみとなる
つまり、これまでより高速で、かつ急加速での性能が求められ、荷物も従来以上に積載して、かつエンジンが冷え切った状態での燃費が従来以上に求められる。
これだけテスト環境が変わると、既存エンジンの改善で何とかしようとするのはもはや不可能に近く、新たに設計し直す必要に迫られているのだ。
おおざっぱに言って、従来のJC08は、試験対策を重点的に対策すればクリアできる部分があったが、WLTPは限りなくリアルな環境での燃費を向上させないとクリアできない。お受験対策のノウハウではなく、本当に技術力が問われる状態になった。
これによりエンジンの技術トレンドは大きく変わる。例えば、過給によって低速域のトルクを増やし、高目のギヤでエンジンを回さずに走ることで、燃費を稼いでいたダウンサイジングターボは存続が厳しくなっている。急加速プログラムが増えたことにより、そこで過給して燃料をドーンと吹いてしまう設計が完全にあだとなっているのだ。試験モードでは低燃費でも、リアルワールドでドライバーがテストモードにないほど一気にアクセルを踏むと性格が豹変して速いというダウンサイジングターボの「ジキルとハイド」的な一面は、抜け道をほぼふさがれてしまったのだ。
WLTPに次ぐもう1つのルールはCAFE(Corporate Average Fuel Economy)規制だ。これは企業全体の平均燃費規制なので、一部車種だけが優秀な燃費を記録してもクリアできない。平均値を下げなくてはならないので、低燃費のクルマをたくさん売るしかない。だから高価で数の売れないFCVやBEVでは実質的には対策にならず、数のはけるHVを用意しなくてはならなくなるのだ。欧州勢が「やっぱりHVもやります」と言わざるを得なくなったのはCAFEがクリアできないからだ。
しかもこの規制は厳しさを増しており、まもなく平均燃費で20km/Lレベルに到達しそうなのだ。単一車種の20km/Lなら既にクリアしているクルマはたくさんあるが、平均となるととんでもなく厳しい。これがWLTPとセットでやってくることがどれほどの難題かお分かりいただけるだろう。
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