トヨタがいまさら低燃費エンジンを作る理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
トヨタは2021年までに19機種、37バリエーションものパワートレインの投入をアナウンスしている。内訳はエンジン系が9機種17バリエーション、トランスミッション10バリエーション、ハイブリッド系システム6機種10バリエーションと途方もない。なぜいまさらエンジンなのだろうか?
TNGAパワートレーン
では、一体トヨタではこれをどうやって克服するのか?
その回答の1つはエンジンのコモンアーキテクチャー化である。トヨタの各エンジンに分散していた低燃費技術(EGR、VVT-iE、バルブマチック、D-4S)を一元化し、これらの要素技術を統一化した。具体的に何をやっているかについては、今後詳細に取材するつもりだ。説明すると原稿数本分をこれだけで費やしてしまうので、申しわけないがここでは駆け足で詰め込む。
報道発表資料に散りばめられた単語を見る限り、エンジン本体については、ノッキングコントロールを「点火タイミング制御」から「不活性ガスの混入制御」メインに切り替えるとともに、直噴による気化潜熱を使って圧縮比の向上と耐ノック性の向上を図っていると考えられる。要するに燃料をより効率良く運動エネルギーに変えることを狙っている。
これらの技術は個別に見れば過去のエンジンにも投入されていたが、それを新たに1つのパッケージにして新スタンダードに位置付け直したということだろう。併せて、トランスミッションの高性能化により、熱効率の高いエンジン回転域を重点的に使えるようにした。今回の発表でトヨタがエンジンと言わず「新型パワートレーン」と言っているのはそのためだ。実は今回発表された新技術には無段変速機(CVT)と6段マニュアルトランスミッション(M/T)があるのだが、特にCVTはWLTPを強く意識したものになっているように見える。
具体的に言えば、CVTとM/Tのハイブリッド変速機になったのだ。順を追って説明する。
CVTの最大のメリットはエンジンの回転数と車速の関係を自由に組み合わせられるところにある。発進からある速度までずっと特定の回転数に維持できる。例えば、それは最大トルク発生回転数だったり、最大馬力発生回転数だったり、最良燃費回転数だったりという具合だ。ここにおいて低燃費トランスミッションとしてのCVTのメリットは明確なのだが、欠点もまたはっきりしている。
CVTはレシオカバレッジが小さい。「?」と言うなかれ、そんなに難しくない。要は最小ギヤと最大ギヤの比率である。CVTは2つのプーリーにベルトを掛けて、それぞれのプーリーの有効径を油圧で変化させることで変速を行う。概ね自転車の変速機を思い浮かべてもらえば分かるだろう。前がデカくて後ろが小さいほどペダルが重くなり、速く走れるが、大負荷に弱くなる。レシオカバレッジはプーリーの最小有効径と最大有効径の比率で決まるので、つまるところどれだけデカいプーリーを採用できるかが勝負になるのだが、ここに問題がある。プリーサイズを大きくすれば同じ角度を移動するのに外周径が増える。それによってベルトの速度が増えていくと遠心力でベルトが切れてしまうのだ。
実はこのベルト、スクーター用とは違って、引っ張り方向で動力を伝達していない。クルマのトルクだとそれではベルトがもたないのだ。だから5円玉にひもを通したような構造になっている。具体的には金属ベルトに将棋の駒のような金属片をたくさん通した形だ。
引っ張る時はベルトの強度だが、押す時は積み重ねられた金属の駒に圧縮圧力が掛かるだけ。つまり事実上金属の棒である。だからクルマのトルクでも大丈夫なのだ。問題は金属の塊みたいなものなので重たい。重いものに遠心力がかかれば、ベルト切れは構造上避けられない。
かと言ってレシオカバレッジを小さいままで放置すれば、高速走行でエンジン回転数が上がって燃費が悪くなる。WLTP環境下ではこれではまずいのだ。
そこでトヨタは、CVTと普通のギヤを階層的に使うことにした。発進直後は普通のM/Tと同じく歯車を使う。速度が上がるとシフトフォークがギヤを引っこ抜き、代わりにプーリーを出力軸に固定してCVTに切り替わる。歯車ギヤがカバーしているレシオ域はCVTがカバーする必要がないので、その分、高速側へレシオカバレッジを移動できる。
これには他にもメリットがあって、発進直後に可変変速機を用いると加速要求をどう判断するかによって走り出しのフィールが都度変わる。しかし歯車ならギヤ比は常に一定なので走り出しのフィールが向上するとトヨタは主張している。乗ってみないことには分からないが、理屈は正しい。
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