トヨタがいまさら低燃費エンジンを作る理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
トヨタは2021年までに19機種、37バリエーションものパワートレインの投入をアナウンスしている。内訳はエンジン系が9機種17バリエーション、トランスミッション10バリエーション、ハイブリッド系システム6機種10バリエーションと途方もない。なぜいまさらエンジンなのだろうか?
残された課題
さて、CVTにはもう1つ問題がある。パワーが必要な高速域ではベルトを締め付けるプーリの油圧を高めなくてはならないので、速度を上げるほどパワーロスが増える。トヨタではプーリーのV字谷の角度を小さくして、挟み込み力のベクトル成分を増やす工夫をしている。ただし、本質的には上側にもオーバードライブギヤとして使える歯車機構が下側同様にほしいところだ。問題は低速側と違って使用頻度が極端に低いことだ。日本の法律では明らかに使わないレンジにならないと作動しない。冗長と言えば冗長だ。
では、筆者がなんでそんなことを問題にするかと言えば、WLTPでは本来130km/hまでテストが組まれているからだ。これを例によって国交省が「日本の走行実態を鑑み、超高速フェーズを除外(国交省資料原文ママ。蛇足だが鑑みの場合は「〜に鑑み」が正しい)」するとして100km/h弱を最高速とする中速域モード(グラフ緑線)までと定めてしまった。現状、国産車の最も燃費の良い速度域は80km/h程度になっているのが普通だ。本来国際ルールの統一が理念であるWLTPにそういうドメスティックなルールを定めるのはどうかと思う。ましてやわが国でも高速道路の速度上限アップが検討されている中でと考えると、あまりにも旧弊な考え方だろう。トヨタもこの新パワートレーンをグローバルユニットと位置付けている。特に欧州では高速長距離移動が多く、そこで燃費の悪いクルマは敬遠される。トヨタの真のグローバル化のためにはここにも何か工夫がほしいところである。
とはいえ、今や注目が薄れているCVTにこれほどの改革をもたらしたトヨタの全方位アプローチはやはりすごいと思う。早く実車をテストしてみたい。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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