トヨタの改革に挑む叩き上げ副社長:池田直渡「週刊モータージャーナル」【番外編】(3/3 ページ)
これまであまり脚光が当たることがなかったトヨタの「モノづくり」。ところが、潮目が変わりつつある。先の決算発表の場に河合満副社長が登場したのだ。河合氏は生産現場から叩き上げで副社長にまで上り詰めた人物。現場のラインに長年従事していた叩き上げならではの知見を生かした改革が今まさに生産現場で始まっているのだ。
車両設計・生産技術・技能工
自動車を作ると一言でいっても、極めて多くの人がそこに参画している。河合副社長のインタビュー記事に先駆けて、明らかにしておかなくてはならないことがある。エンジニアの種類だ。作業の上流から、クルマの設計を行う開発エンジニア、それを生産するための設備開発を行う生産技術エンジニア。生産技術エンジニアが設計した設備で実際に生産作業を行う技能工。
この3つがまったく別々に機能していたのはもう昔の話で、現在では、それぞれが知見を持ち寄って開発が行われる。先の習字の例で言えば、生産技術のエンジニアはロボットを設計したり導入したりすることはできても実際の字の書き方は教えられない。だから技能工がそれを教える。
考えてみれば、開発エンジニアがものすごい性能のクルマを設計したとしても、それを実体化させる生産方法がなければ意味がない。そして3つの技術は絶え間なく進化しており、最高の効率を発揮しようと思えば、相互に何ができて何ができないかを知らなければ仕事が成立しない。だからこそ相互の知見を持ち寄りながらクルマを開発するのだ。
もう1つ、自動車生産のラインで面白いのが「からくり」と呼ばれる仕組みだ。これは言ってみれば「ピタゴラ装置」のような仕掛けで、電気動力を使わず、生産ラインの補助を行う。部品を載せると部品の自重で次のラインへ部品を運んだり、作業者の体重を使ってものを持ち上げたり、磁石と滑車を使ってボルトを正確に1本だけ取り出して作業者に補給したりといった具合で、作業現場の労力を低減しつつ、効率を上げる仕組みだ。これらの仕組みは技能工の人たちが実作業のカイゼンとして作り上げていく。
さて、生産現場の基礎知識を理解してもらった上で、トヨタの現場を支えるキーマン、河合副社長のインタビューに移りたい。(次回に続く)
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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