情緒たっぷりの「終着駅」 不便を魅力に転じる知恵とは:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
広島県のJR可部線が延伸開業してから1周年を迎え、記念行事として「終着駅サミット」が開催された。終着駅が持つ魅力と役割を再認識し、終着駅を生かしたまちづくり、沿線の活性化を考えるという趣旨だ。情緒だけでは維持できない。維持するためにまちづくりが必要。それは日本の地方鉄道の縮図でもある。
切り捨てられ続けた「盲腸線」
ただし、これらの施策ができる終着駅は、沿線全体の人口が多いという大前提が必要になる。これが地方鉄道になると、活性化にたどり着く前に存続問題になってしまう。かつて、JRの前身の日本国有鉄道が多額の赤字を抱えたとき、赤字ローカル線を廃止するという動きが2度あった。そして2度とも「終着駅」のある路線が廃止の対象となった。
1度目は1968年だ。国鉄は東海道新幹線が開業した64年度に初めて単年度収支で赤字となり、66年には繰越利益も追い付かず完全な赤字となった。そこで、赤字路線の整理が検討された。ほとんどの地方路線が赤字だったけれども、特に「営業キロが100キロ以下で、鉄道網全体から見た機能が低く、沿線人口が少ない」「定期客の片道輸送量が3000人以内、貨物の1日発着600トン以内」「輸送量の伸びが競合輸送機関を下回り、旅客・貨物とも減少している」に該当する路線は「鉄道としての役目を終えた」とされた。
「鉄道網全体から見た機能が低く」――これが、単独終着駅の路線だ。起点と終点の駅のうち、片方が他の路線に接続しない。乗り換えの需要が発生しない。つまり廃止対象というわけだ。
2度目は80年の「特定地方交通線」指定だ。赤字83線のほとんどは住民の反対が多く、国鉄の赤字が深刻でなかったため、廃止路線は少なかった。しかし、80年になると国鉄の赤字や労働問題が深刻化して、国鉄に対する風当たりが強くなった。そこで、経営改善に本腰を入れる必要に迫られて、本格的に地方鉄道の廃止、バス転換を図る方針になった。
廃止路線の対象は原則として、輸送密度(1キロあたりの1日平均輸送人員)4000人未満だ。ただし除外対象もあった。「通勤通学時間帯で1時間あたり1000人以上」「代替輸送道路が未整備」「代替輸送道路が積雪で年10日以上通行不可能」「輸送密度が1000人以上で、1人当たり平均乗車距離が30キロ以上」。しかし、終着駅のある路線は距離が短く、除外対象になりにくかった。
こうしたローカル線はいつしか「盲腸線」と呼ばれるようになった。人間の盲腸は短く、ほとんど機能せず、意識するとすれば盲腸炎の時くらい。そんな役立たずの鉄道路線というわけだ。国鉄の盲腸線の切り捨ては続き、JRに移管した後も廃止論議が起きた。
JR北海道が「当社単独では維持できない路線」のうち、ほぼ半数が終着駅のある路線。ほとんどの路線が国鉄時代なら廃止対象となりそうな輸送密度(出典:JR北海道「当社単独では維持することが困難な線区について」)
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