情緒たっぷりの「終着駅」 不便を魅力に転じる知恵とは:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
広島県のJR可部線が延伸開業してから1周年を迎え、記念行事として「終着駅サミット」が開催された。終着駅が持つ魅力と役割を再認識し、終着駅を生かしたまちづくり、沿線の活性化を考えるという趣旨だ。情緒だけでは維持できない。維持するためにまちづくりが必要。それは日本の地方鉄道の縮図でもある。
「人々の心の片隅に、いつも終着駅がある」
終着駅サミットでトークイベントの司会を担当した久野知美さんにお話を伺った。久野さんはアナウンサーとしてテレビの報道、バラエティ番組で活躍するほか、「女子鉄」として鉄道関連番組や鉄道会社主催イベントなどで活躍している。可部線の盛り上がりをどのように感じただろう。
「私たちがトークセッションなどを行っている間に、並行して終着駅マルシェという市場が開催されていました。あき亀山駅の近くの、かつての河戸駅の隣の建屋です。沿線にお住まいの方が地元で採れた野菜などを販売しました。前日から入念な準備をなさっている姿がとても印象的でした」
広島市の中学生を対象にした作文コンクールでは、610もの作品が寄せられた。どの作品も可部線の延伸を間近に見てきた臨場感あふれる表現や、未来に向けたメッセージが多数込められていたという。「地元だけではなく、可部線の線路が九州や全国へつながっていると実感した」との声が多かったという。線路があるというだけで、若い世代には、その先の広い世界や未来まで見渡せるチャンスがある。
「延伸開業前の線路を歩くウオーキングイベントを実施したときのお話も印象深かったです。地元の皆さんの熱意で開通したわけで、その時の思いを、今もなお沿線の皆さんが引き継いでいます。まだ開業1年ですから、これからが実績の積み重ねになると思います。でも、行政やJRだけでなく、沿線の皆さんの気持ちが前に向いていることが、乗車や駅前の散策で実感できました」
鉄道の維持、存続に必要な要素は収支だけではない。沿線地域の未来をどう描くか、沿線の子どもたちに、どれだけの可能性を提供できるか。地域と鉄道が共生するためには、沿線の人々が、いつも鉄道の価値を気に掛けておかなくてはいけない。それは終着駅に限らないけれど、ローカル線問題の縮図が終着駅だ。
盲腸だって役に立つ場面がきっとある。切り取った後で気付いても遅いのだ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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