日本郵政、正社員の手当削減はタブーなのか:同一労働同一賃金を考える(2/4 ページ)
日本郵政グループが正社員のうち約5000人に対する住居手当を2018年10月から段階的に削減し、最終的には廃止することを決めた。背景には「同一労働同一賃金」の考え方がある。今回の郵政グループの対応はどう評されるべきだろうか。
働き方改革の3本柱の1つ「同一労働同一賃金」の狙いは?
4月に国会に提出された働き方改革関連法案について、安倍晋三首相は「残業時間の上限規制」、「同一労働同一賃金」、「高度プロフェッショナル制度」を3本の柱と位置付けた。
同一労働同一賃金は文字通り、「同一内容の労働には、(正社員かどうかといった他の条件にかかわらず)同一の賃金を」ということになるが、国が目指しているのはもう少し広く、福利厚生や能力開発の機会なども含めて非正社員の置かれる環境を良くしていこうということだ。
例えば、同じ事務所で仕事をしているにもかかわらず、非正社員には社員食堂を使わせないとか、同じ職務に就いているにもかかわらず非正社員にはそのスキルを高めるための研修を受けさせないといったことも、今度の法改正で不合理な差異として禁止する方向だ。
かつては学生や主婦が、学費や生活費の足しにするために行う位置付けだった非正社員という働き方が、昨今は主たる生計を担う層にまで拡大し、ワーキング・プアなどの問題が深刻化している。そのような状況の中、同一労働同一賃金で目指すのは非正規社員の待遇を引き上げることで個人の生活を良くしたり、国の経済の活性化につなげたりすることだ。その意味で、郵政グループが正社員の待遇を引き下げて非正社員との平等や公平を実現しようというのは間違っている、という指摘は正しい。
非正社員への手当不支給を「不合理」とする判決も
今国会に提出された働き方改革関連法案の施行開始は早くて19年4月。郵政グループがそれに先駆けて手当の見直しに踏み切ったのには、理由がある。17年9月に東京地裁、18年2月に大阪地裁で、日本郵便が手当を正社員のみに支給するのは一部違法であるとする判決が出ているのだ。
根拠となったのは「労働契約法」20条で、有期雇用であることを理由に労働条件において正社員と不合理な差をつけることを禁じている。住居手当については、東京地裁では正社員の8割、大阪地裁では正社員と同額の支給が命じられた。
違法という判決が出た以上、郵政グループとしては正社員のみを優遇する手当をそのままにしておくわけにはいかなかったのだ。では、どうするか。
従業員の約半数を非正社員が占める同社の財政を考えると、単にすべての手当を非正社員にも支給するということが難しいのは、想像に難くない。そうなると、正社員に支給していた手当も含む人件費全体を抜本的に見直し、バランスの取れた内容にしようというのは合理的な考え方だと思う。
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