日本郵政、正社員の手当削減はタブーなのか:同一労働同一賃金を考える(3/4 ページ)
日本郵政グループが正社員のうち約5000人に対する住居手当を2018年10月から段階的に削減し、最終的には廃止することを決めた。背景には「同一労働同一賃金」の考え方がある。今回の郵政グループの対応はどう評されるべきだろうか。
手当のあり方は時代に応じて変化している
社員にとって、手当がなくなるのは損のように思えるが、一概にはそうとも言えない。
郵政グループの場合は正社員と非正社員の間の差異が問題になったが、手当の規定によっては正社員の中でも不公平感を生むものがある。例えば、勤続手当などは中途で入社して古参の社員以上に成果を出している社員の不満を生むかもしれない。共働きの社員にとっては、専業主婦の妻を持つ男性社員が配偶者扶養手当を受け取れることに釈然としないものを感じるかもしれない。時代の変化によって、社員のニーズも変わるのだ。
実際、コスト削減の必要や社員のニーズの変化に合わせて手当の見直しを図る企業は少なくない。例えば、トヨタ自動車は15年に配偶者手当を段階的に廃止し、代わりに子ども手当を増額することを決めた。子どものいない専業主婦家庭にとっては収入減になるが、「子育てしながら働きやすい社会に」という社会の要請を反映した合理的な変更と言えるだろう。
住居手当についても、厚生労働省「就労状況総合調査」によると、05年調査では44.8%の企業が支給していたが、15年には40.7%に減っている(調査対象は本社の常勤者30人以上の企業)。今、個人の生活スタイルも多様化しており、同じ都心の会社に勤めていても、職場に近いタワーマンションに住む人もいればシェアハウスに住む人もいるし、自然豊かな環境を好んで地方との2拠点居住を選ぶ人もいる。そういう状況において、一律の住居手当はなじまないのではないだろうか。
また、住宅手当がいくらだからどこに住もう、というよりは、給料とさまざまな手当を合わせた総合的な収入を基に生活設計を考える人も多いだろう。しかし、企業の求人情報には年齢別の月給や年収の目安などは書かれていても、手当については「住宅手当あり」といった記載のみで、支給条件やその金額など細かい点まで明示しているところはほとんどない。社員の生活を支援するという名目でありながら、社員からするとどの程度当てにできるものなのか分かりづらいのだ。賞与や退職金が手当を含まない基本給をベースに計算されるケースが多いことも考え合わせると、企業が手当に充てている原資を基本給に回すほうが、社員にとってはありがたいのではないだろうか。
関連記事
- なぜメルカリはホワイトな労働環境をつくれるのか?
メルカリの福利厚生がホワイトすぎると話題だ。多くの日本企業は働き方改革を実践するため、残業時間の規制などに躍起になるが、根本的な誤解も多い。メルカリの取り組みを知ることで働き方改革の本質が見えてくるはずだ。 - 「定期的な異動が生産性を落としている」説は本当か
新年度がスタートした。新たな部署に配属されて、「うまくやっていけるかな」と不安を感じている人も多いのでは。4月に「定期人事異動」を導入しいている企業は多いが、このシステムは本当に効率的なのか。ひょっとしたら生産性を落としているかもしれない。 - セブンの「時差通勤制度」に見る、働き方改革の“限界”
セブン&アイ・ホールディングスが時差通勤制度を導入する。評価すべき取り組みだが、一方で、一律の時間枠で社員を拘束する点においては、何も変わっていないと解釈することもできる。同社の取り組みが現実的なものであるが故に、多様な働き方を実現することの難しさが浮き彫りになっている。 - 必殺・新人つぶし! ――裸になれない“小ジジイ”の壁
新入社員を待ち受ける“小ジジイ”の壁。小ばかにした態度で指示したり、自慢話を延々と続けたりして、モチベーションを下げる人たちです。“小ジジイ”にならないようにするには、どうしたらいいのでしょうか? - ルネサス子会社の過労死事件から読み解く、「労働基準法」の病理
半導体大手ルネサス エレクトロニクス子会社で工場勤務の男性が2017年1月に過労死していたことが判明。電通で新入社員が過労自殺した事件以来、長時間労働の危険性がこれほど世間で騒がれているにもかかわらず、なぜ痛ましい事件は繰り返されるのだろうか。その答えは、労働基準法による規制の甘さにあると考える。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.