コラム
日本郵政、正社員の手当削減はタブーなのか:同一労働同一賃金を考える(4/4 ページ)
日本郵政グループが正社員のうち約5000人に対する住居手当を2018年10月から段階的に削減し、最終的には廃止することを決めた。背景には「同一労働同一賃金」の考え方がある。今回の郵政グループの対応はどう評されるべきだろうか。
手当の削減をタブー視せず、多様な社員に正当な対価を
郵政グループが行った正社員の手当の削減は、それだけ取り上げれば、同一労働同一賃金の理念に反するものである。これを法の抜け穴として参考にし、単に人件費を減らすだけにとどまる企業が出てくるとしたら、それは言語道断だ。
しかし、手当の削減はタブーではない。本当に同一労働同一賃金を実現しようとするなら、むしろ手当も含む給与制度や人事制度全体を見直さざるを得ないのではないか。
定年までフルタイムで(実際には長時間の残業付きで)働くというこれまでの正社員のあり方だけを“正しい働き方”とみなす時代が終わりを迎えている今、企業には、多様な働き方をする社員それぞれのニーズに合わせた支援のあり方や正当な対価の支払い方を模索することが求められている。社員の側も、住居手当があるかないかといった目先の利益に惑わされず、企業が社員の扱いをどう考えているか冷静に見極め、自律的に人生をデザインしていく姿勢が必要だ。
著者プロフィール
やつづかえり(ERI YATSUZUKA)
ライター、編集者
コクヨ、ベネッセコーポレーションに勤務後、2010年にフリーランスに。13年に組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するWebメディア『My Desk and Team』開始。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』の初代編集長(〜18年3月)を務め、現在はYahoo!ニュース(個人)などで働き方、組織などをテーマに執筆中。
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