71億円の減益ながら表情の明るいホンダ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)
大型連休前にホンダの決算発表会が開催された。営業利益は8335億円で、前年度に比べて71億円のダウンとなった。しかし会見に臨んだ倉石副社長の表情は明るい。質疑応答では笑顔を見せる局面もあった。
これからのホンダ
当年の決算で見えてきたのは、今は悪くないホンダの姿である。ただしその体質は中国と米国依存であり、他社との比較において、それ以外の地域の比率が低すぎる。マツダを例に引けば、日本、北米、欧州、中国、その他の5地域が、ほぼ20%ずつと満遍なく売れている。仮に経済が連動しやすい日米で何らかの経済ショックが起きても他地域が踏ん張ってくれる。ホンダは中国を除くアジアは比較的善戦中で、特に二輪の躍進は大きいし、パワープロダクツもうまくいっている。それだけに輸出用と位置付けを直した英国工場をどううまく活用するかがキーになる。
もう1つは利益率の問題だ。さまざまな問題が重なり合っているとは思うが、他社の動向から見ると、コモンアーキテクチャへの取り組みで遅れている。コモンアーキテクチャ化が進めば混流生産が進み、車種専用ラインがいらなくなる。モデルチェンジごとの工場への投資が抑制できる。トヨタは何と50%も設備投資を減らしてみせたのだ。
これは論理的根拠がある話ではないが、自動車メーカーにとって、300万台を超えて1000万台までの間はどうも暴風域のような気がする。100万台のスバルも160万台のマツダも300万台のスズキも中期的にうまくいっている。ところが300万台超えのブランドを見ると、フィアット・クライスラーもヒュンダイも苦しんでいるように見える。すでに570万台に到達してしまったホンダは今さら300万台には戻れない。だから恐らく1000万台を目指すしかない。
日本と北米のマーケットにはもう大きな伸び代はない。中国はまだポテンシャルがあるし、その次はインドだろう。ただ、後350万台を積み上げるとしたら、ホンダはもっと車種を増やしていかなくてはならない。そのとき最も台数を稼ぐはずのアジア戦略車で、ホンダはこのジャンルでまだ十分に地位を築けていないし、米中で売れるSUVのバリエーションも増やさなくてはならない。
米国のZEV(ゼロエミッションビークル)や中国のNEV(ニューエネルギービークル)規制に対応するためにはEVも必要だし、CAFE(企業返金燃費)規制をクリアするためにはハイブリッドを増強し、大量に販売しなくてはならない。今のホンダは、とにかく多方面作戦を漏れなくやり抜く以外に出口がない。
少ない開発リソースをうまく活用するためのコモンアーキテクチャへの取り組みを加速させないといけないはずだが、そこにどうも危機感が希薄だ。2兆円の利益を叩き出しているトヨタの方がはるかに危機感を持っていることはホンダも気が付いているはずなのだが。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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