「夢」の功罪 貧困・奨学金記事を炎上させるもの:真のキャリア教育(2/3 ページ)
貧困に苦しむ家庭や、そうした環境下で育った若者にとって、大学進学やそのための奨学金に関する記事が人気です。一方、そうした記事は自己責任論や「甘い」といった批判も呼びやすく、本質の議論がずれているのではないでしょうか。
(3)自己責任では済まない社会コスト
一方、奨学金問題ですが、誰が悪いのでしょうか?
特定個人の責任を追及しても意味があるとは思えません。しいて挙げれば社会制度の問題ですから政府に責任があるのは同意です。ただしその政府を選んでいるのは投票した人ですから、それこそ自己責任でもあります。
つまりキャリアの問題で責任追及することが無意味なのです。社会制度不備について声を上げることは賛成ですし、どんどん問題提起すべきと思います。しかしその改善は、投票行動を変えるか何年何十年という単位が必要なものであり、目の前の苦しむ人への即座の支えにはならないと思っています。
日本でも完全に定着した格差社会で、貧困状態に陥った人たちが苦しんでいるのはまぎれもない事実です。これは放置すれば社会問題としてその解決コストが全国民にのしかかるという点でも、他人事と傍観することはできません。当然財政的にも限度がある社会保障ですから、単に学費無償化という政策のため消費税がさらに増税されることに、個人的には非常に反発を感じています。
なぜ全就業人口の半数以上が就く営業職や販売・サービス職というキャリアを教えないのでしょう。貧困家庭が奨学金含む無理の上でFラン大学に進むのはきわめて高いリスクがあることや、優秀な学生には学費免除の道もあること。好きなこと・やりたいことと仕事は別であることを教える方がはるかに大切です。行うべきは、誰でもどんな大学への進学でも経済支援する制度ではなく、情報格差の縮小です。
(4)情弱対策
悲惨な経済状況にある家庭の多くは情報弱者だと感じます。「今時大学も出ないで高卒ではろくな就職はない」といった家庭内での会話が、貧困記事ではよく見られますが、キャリア的に見ればただの暴論でしかありません。
誰もが名を知る大企業でホワイトカラーで活躍するのであれば、おそらく高偏差値大学を卒業しなければ可能性はほぼないでしょう。しかしそんな人は現実でも日本人の中でほんの一握りにすぎません。年収1000万以上の家計は就業人口の1割程度といわれますが、当然大企業でもこの年収水準に満たない人はいくらでもいます。
給食費にも苦労するという家庭から一気にトップ1割層を目指すのは、可能ではあってもきわめて難しく、またリスキーでもある覚悟があるかどうか、そうした判断もなく「今時……」といっているようであれば、あまりに情報を理解しなすぎという批判はやむなしです。平均収入である400万円程度を得ている人の方が圧倒的に多いわけですし、「高卒ではろくな就職がない」のではなく、高卒だろうと大卒だろうと大学院卒だろうと、ろくな就職先でない会社に入社してしまう人は必ずいます。学歴だけで選択肢が確定するという考えそのものが雑で乱暴すぎるのです。こうした情報弱者対策こそ、苦しみを軽減する即効性ある対策なのではないかと思います。
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