JR西日本「山陰キャンペーン」で知る、JRグループの課題:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
JR西日本は近畿圏の強い輸送需要を抱える半面、沿線人口が減り赤字傾向の山陰地方のてこ入れが課題となっている。7月から始まる「山陰デスティネーションキャンペーン」が大きなチャンスだ。
JR西日本にとって山陰本線は長大な財産
山陰本線は京都から日本海沿岸を通って山口県の幡生に至る。総延長は673.8キロもあり、JR在来線としては最長距離で、しかも全区間がJR西日本エリアだ。西へ行くほど閑散区間となり、運行本数も減り、赤字であろうことは想像に難くない。
しかし、長距離路線は財産だ。山陰地方は人口が少ないけれども、観光資源は多い。西寄りの東萩〜下関〜新下関で運行する「○○のはなし」や、山陰本線を全区間走り切る「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」も人気だ。新メンバーの「あめつち」も山陰本線の魅力を伝える。山陰本線はまだまだ開拓の余地がある。
鉄道路線の存続理由は2つだけだ。「便利か」「面白いか」。両方を兼ね備えればいいけれど、どちらか1つで勝負しなくてはいけない。地域の人々が「便利」に使ってもらえない路線は「面白くする」が生き残る方法になる。どちらの要素もなければ残す意味がない。
山陽本線と結ぶ路線として、山口線にはSLやまぐち号があり、木次線には奥出雲おろち号がある。神戸〜下関の528.1キロの山陽本線と組み合わせると、魅力的な鉄道回遊ルートがいくつもできる。それだけに三江線の廃止は残念だったけれども、これはもう語っても仕方ない。いや、廃線利用で新たな魅力を発信できれば、沿線地域にはまだチャンスはある。
JR西日本がこれだけユニークな列車を運行できる理由は、キャンペーン地域が全て自社線内だからだ。他社との連絡、調整がほとんど必要ない。あとはいかに面白くするか、にかかっている。鉄道ファンとしては、往年の最長距離客車普通列車「824列車」を再現して、門司〜福知山間の山陰本線各駅停車を走らせてほしいけれど、これはJR西日本というより、日本旅行に期待した方がいいかもしれない。
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