社員の働き方を変える実にシンプルな方法 カルビー・松本会長:「プロ経営者」インタビュー【前編】(2/4 ページ)
「プロ経営者」として日本を代表するカルビーの松本晃会長兼CEO。今月末でカルビーの会長職を退任予定の松本氏に、同社での9年間を振り返ってもらうとともに、注力した働き方改革についてインタビューした。
複雑に考えない、何かを変えればいい
――松本さんが入社してすぐに取り組んだことの1つが「働き方改革」です。オフィス移転に始まり、フリーアドレスや人事制度の刷新など、さまざまなことを推進しました。これは当初から決めていたことなのか、入社して「これではいけない」と思われて始めたのでしょうか。
これらは僕の仕事のやり方だから、決めていたと言えば決めていたし、カルビーに入ってから取り組んだこともあります。いっぺんにはできませんから、1つ1つ進めていきました。ただ、ほかの人よりも改革のスピードは少し速いかもしれませんね。
おっしゃるように、まずはオフィスから手を付けました。働き方改革と言っても、職場環境が悪ければ社員は十分に働けません。昔の赤羽の本社で今と同じことができるかと言えば、できないですよ。(関連記事:ダーツで席決め 好業績のカルビー、成長の源はオフィスにあった!)
例えば、四畳半のワンルームで、子どもが4人いて、生き方改革と言っても、そんなのは無理ですよ。だからまずは環境や制度を整えてあげないといけません。
――とはいえ、多くの日本企業はオフィス環境や制度をどうするべきかと、その前段階で議論が止まっている印象を受けます。
それは複雑に考えすぎるからです。何かを変えれば、何かが変わる。それをいっぺんにあれもこれもと言うんだけど、だからかえってうまくいかないのです。何か1つでも変えれば、それに追いついて物事は変わっていきますよ。
――何よりもまずは変えることが重要なのですね。その変化に対してカルビーの社員は抵抗なく、なじんでいったのでしょうか?
やってみて快適だったらなじむし、不快だったら怒るはずです。あまり文句が出ないところを見ると、まあまあ快適なのではないでしょうか。
フリーアドレスを例にとりましょう。社員個人の机があれば、皆その上にモノを置くに決まってますよね。オフィスを退出する際も、そのまま置いといたほうが翌日も便利に決まっています。するとモノがどんどんたまり、作業スペースが小さくなるだけでなく、どこに何があるか分からなくなり、探すのにものすごく時間がかかります。
ところが、モノがなかったらもっと簡単に仕事ができるわけです。こういうことって働いている個人は気付かないので、会社がそういう制度にしてあげればいいのです。「あなたの机は今日はここですよ、明日はここではないですよ」と。すると、たくさんの書類なんて置いておけません。鉛筆やボールペンを50本も100本も持ってる人がいるけれど、そんなに置けないですよ。ボールペン1本で十分ですよね。
机の上にモノを置くのをやめなさいなんて言っても、そんなのやらないですよ。人間ってそんなものです。けれども、スペースをなくせばできるのです。
――半ば強制的にそういう環境を用意すれば、人は順応していくということですね。
環境を用意して、制度をちゃんと作ってあげれば、人はそれに合わせるのです。
そうした環境を提供もせずに、ああでもない、こうでもないと言っていると、最終的に会社の目的をどんどん忘れていくでしょうね。会社なんて簡単なんですよ。世のため、人のためにやっていくのが必要条件。もうけるのが十分条件。これでおしまい。
ポテトチップスを作ろうが、何を作ろうが、商品を食べてもらって皆さんに喜んでもらう。そのためにやっているのです。ただ、慈善事業でやっているわけではありません。稼がないと商品開発はできないし、設備投資もできない。税金も払えないし、社会貢献もできないし、配当も払えない。だから稼ぐことは良いことなのです。稼ぐために働くのです。
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