転職が増えないと、社会のAI化は進まない?:“いま”が分かるビジネス塾(1/3 ページ)
AI化が進むと人間の仕事の多くが失われるという話は社会の共通認識となりつつある。しかし、現在の労働市場のままでは、AI化そのものがスムーズに進まない可能性もあるのだ。
AI(人工知能)化が進むと人間の仕事の多くが失われるという話は社会の共通認識となりつつあるが、現在の労働市場のままでは、AI化そのものがスムーズに進まない可能性もある。AI化には、同じ業務に従事する人の数を減らすという「量」の効果があるが、業務に求められるスキル、つまり「質」の面でも変化をもたらすからだ。
多くの人材が企業間を行き来し、最適な人材マッチングが行われることで、AI化の効果が最大化される。つまりAI化をスムーズにするためには、もっと積極的な転職が必要となるのだ。
人数だけでなく、求められるスキルも変わる
一般的にAI化が進むと、多くの人材が不要になると考えられている。メガバンク各行は大規模なリストラに追い込まれているが、その理由は、ビジネスのAI化によって、同じ業務をこなすために必要となる人数が大幅に減ったからである。
メガバンクでは、顧客からの問い合わせに対してAIを活用するシステムを導入しているので、顧客対応に必要な人員数は減ることになる。また審査業務へのAI活用も進んでいるので、支店の銀行マンは1人でより多くの企業に融資できる。
同じような動きが、各業界に波及することは必至であり、今後、多くの人材が余剰となるだろう。
この話は大きな流れとして間違っていないのだが、企業の現場はもう少し複雑である。AIが社会に普及すれば、多くの業務が自動化されるのは確かだが、従来とまったく同じ職場環境のままで、業務が自動化されるとは限らない。AIが実装されたシステムをうまく使いこなせる人材がいて、はじめてAIが持つ力を100%発揮できる。
例えば、営業現場にAIが導入された場合、見込み客の抽出方法やアプローチ方法が大きく変わる可能性が出てくる。AIの導入によって10人必要だった営業チームは5人で済むようになるかもしれないが、必要とされる5人は、従来型業務のスキルを持った人材とは限らない。
AIの導入によって必要とされる人数が減ると同時に、AI化後に必要とされる人物像も変わってしまうので、AIの効果を最大限発揮するためには、実は人材の総入れ替えが必要だったりするのだ。
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