JR東日本が歩んだ「鉄道復権の30年」 次なる変革の“武器”とは?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
「鉄道の再生・復権は達成した」と宣言したJR東日本。次のビジョンとして、生活サービス事業に注力する「変革2027」を発表した。鉄道需要の縮小を背景に、Suicaを核とした多角的なビジネスを展開していく。
「鉄道需要は減る」危機感から世界に目を向ける
「変革2027」の冒頭で、鉄道事業重視から生活産業重視へと舵を切った。その理由は何かといえば、国内鉄道輸送需要の減少だ。JR東日本の事業エリアのうち、東京圏は2025年以降、緩やかに人口が減っていく。東北地方は40年までに人口の3割が減るという予測がある。その上に、働き方改革、ネットの普及によって移動需要が減る。自動車の自動運転の実用化は、鉄道を含む公共交通の需要を縮小する。
鉄道の需要が縮小していくから、鉄道を主力に置けない。しかし鉄道のおかげでSuicaができた。エキナカの開発で商業の経験を積んだ。鉄道を維持しつつ、企業の成長はSuicaを核とした生活産業だ、となった。そして次の展開として、Suicaを活用したICTの輸出がある。鉄道面では技術力の高さからインド新幹線などに参画しているけれども、Suicaは鉄道に絡まない地域で商業分野を切り開く。JR東日本が首都圏と東北の企業ではなく、グローバルな会社になる。
JR西日本が東京でオフィスビルを取得し、JR九州が東京でホテルや飲食店を展開する。阪急は都内で古くからデパートやホテルを展開してきた。京阪電鉄も浅草にホテルを開業し、この秋には築地にもオープンする。迎え撃つ側のJR東日本はどうするかといえば、海外へ目を向けていた。27年を目標年度として、JR東日本の鉄道は変わる。JR東日本そのものも変わっていく。ビジネスの中心が鉄道から生活空間へ変わる。
「えっ、Suicaって、もともときっぷだったの? 電車にも乗れるの?」
笑い話ではなく、本当にそんな日が来るかもしれない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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