JR東日本が歩んだ「鉄道復権の30年」 次なる変革の“武器”とは?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
「鉄道の再生・復権は達成した」と宣言したJR東日本。次のビジョンとして、生活サービス事業に注力する「変革2027」を発表した。鉄道需要の縮小を背景に、Suicaを核とした多角的なビジネスを展開していく。
Suicaが核となるビジネスへ
JR東日本の30年で、鉄道に最も大きな変化をもたらしたアイテムがSuicaだ。「きっぷを便利に」というコンセプトから、オレンジカードの発展型としてプリペイド式のイオカードが始まり、チャージ機能でリサイクルできるカード式乗車券としてSuicaイオカードが誕生した。後に仕様変更でSuicaとなって、携帯電話向けのモバイルSuica、スマートフォンアプリのSuicaへと変化していく。
「変革2027」は、Suicaが主役の社会を作る設計図と言い換えてもいい。それくらいSuicaを使った展望が描かれている。Suicaによって集積されたビッグデータをもとに、社外システムのオープンデータと組み合わせて、Suica利用者にサービスを提供する。鉄道の移動だけではなく、決済手段として、駅の宅配ロッカーの利用にも使える。アプリと連携すると、列車の座席指定、バス、タクシーの手配が同時にできて決済も完了する。レンタカー、レンタサイクルなどあらゆる移動手段が利用でき、ホテルのチェックインにも対応する。
Suicaのビッグデータというと、13年に日立製作所とJR東日本が提携した「交通系ICカード分析情報提供サービス」の騒ぎが記憶に新しい。JR東日本がSuicaのデータを日立製作所に提供し、解析データをJR東日本が受け取ってマーケティングに活用するという仕組みだ。しかし、Suicaの移動データを事前の承諾なしに第三者に提供する仕組みが「個人情報の外部提供」と批判された。JR東日本はその教訓から、事前に情報提供の承諾を受けるサービスに変更した。それが「JRE POINT」会員システムだ。会員になるときに情報を提供すると承諾した上で決済時にポイントがつく。PONTAカードやTカードなどと同じ形だ。
Suicaはきっぷの進化形という枠組みを超えて、決済サービスという事業の柱へと成長した。この決済機能とビッグデータ活用が、JR東日本の多角的事業展開の共通基盤となる。
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