「部下を褒めると育たない」という思い込みは捨てよう:日本は「褒め赤字」(2/3 ページ)
「褒めると育たない」と考える人も多いかもしれないが、本当にそうだろうか。コミュニケーション・ストラテジストの岡本純子さんは「日本企業は“褒め赤字”」と指摘する。時代が変わった今、若い人をうまく動かすためにはどんな考え方が必要なのか。
8割が「褒められたい」のに……
――「褒め赤字」の状態とは? その状態だと、企業にどのような影響があるのでしょうか。
私の会社で実施した調査では、約1000人のビジネスパーソンのうち、84.1%が「褒められるとやる気が出る」と回答しました。しかし、実際に上司に褒められている人は約4割。特に40代男性は、27.1%しか褒められていません。褒められること、認められることがモチベーション向上につながるのに、そのニーズが満たされていないのです。
近年、会社に対する従業員の愛着度を示す「エンゲージメント」という指標が注目されていますが、日本のビジネスパーソンはエンゲージメントが低い傾向にあります。転職が一般的になったとはいえ、海外と比べると1つの会社に長く勤める人が多いのにもかかわらず、会社を「信頼していない」「コミットしていない」のが現状なのです。
それは、職場のコミュニケーションがうまく機能していないからではないでしょうか? 日本の企業では「何かすごいことを成し遂げたら褒める」という感覚があり、褒める頻度が非常に少ない。「褒めて承認する」というコミュニケーションの過程を一から見直す必要に迫られていると思います。
――とはいっても、習慣を変えることは難しいです。「どうやって褒めたらいいのか分からない」という悩みも多いと思います。どんな場面で何を見ていれば、自然に褒めることができるのでしょうか。
まず大事なのは、褒めるためにはトレーニングが必要だということです。理論だけでは身に付けることはできません。筋肉と同じです。
その上で伝えているのは、ある海外の研究で示されたモデルです。それは、「褒める」を意味する「PRAISE」の頭文字で、褒めるための考え方について表現しています。次の通りです。
「P」Public or Private 「個別に褒める」「公の場で褒める」を使い分ける
「R」Recognize 相手の行動を認める
「A」Authentic うわべではなく、心から伝える
「I」Immediate すぐに、今ここで言葉にする
「S」Specific 良いところを具体的に指摘する
「E」Enthusiastic 熱心に伝える
私の息子はゲームが大好きなんです。なぜこんなに夢中になれるのかと考えたところ、ゲームはこれらを全て満たしていることに気付きました。何か1つクリアすると、すぐに褒められて、認められる。それがうれしくて、さらに上のステージに挑戦するのです。褒めることは難しいコミュニケーションではありません。ちょっとしたことの積み重ねなのです。
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