世界が知らない“最強トヨタ”の秘密 友山副社長に聞く生産性改革:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
トヨタがレース活動を通じて働き方改革を推進する理由。トヨタGRカンパニーのプレジデントである友山茂樹副社長へのインタビュー取材によって、なぜそんな大胆な改革が可能なのかを究明した。
リーダーの役割
友山: 自律分散型の組織が機能するためには、その全ての組織や人が価値観を共有していなくてはいけないんですよ。だって違う価値観を持ってたらバラバラに動いてどこか違うところへ行ってしまいますから。
ジャストインタイムの理念からすると、リードタイムは短縮しなくてはいけません。だからどんなに生産性が上がるとしても、リードタイムが増えるようなことはやりません。それからニンベンの付いた「自働化」では、いわゆる工程で品質を作り込むのです。不具合が出ているかどうか見える化しなくてはいけない。大きなシステムを入れて異常が見えなくなったり、品質が作り込まれているか分からなくなっちゃうようなものは入れないんです。そういう原則が価値観の共有なのです。
池田: つまり「より大事なことは何か」のプライオリティを明確化すると。あれやこれが良くなるかもしれない誘惑はいろいろあるけれど、大事なことの順位がはっきりしていて、それがブレてはいけない。そこをマネジメントするということですね。
友山: リーダーの役割というのは、そういう価値観を組織にきちんと植え付けていくことだと思います。人を管理するのではなく、例えばレースでは「虹」を指し示すことだと。究極的には勝つことですが、今年のニュルで言えば、1メーターでも長く走ることです。昨年クラス2位を獲得するまで鍛えてきたレクサスRCに代えて、今年は初挑戦のLCを投入しました。勝つことを目標にすればRCの方が確率は高いです。でも、もう試行錯誤の余地が少ない。それだと勉強にも練習にもならないですよね? だからあえて初参戦のLCで「1メーターでも長く走れ」と。そういう目標を与えました。
池田: かつてレースは走る実験室と言われて、そこでさまざまな技術が磨かれて自動車の進歩に寄与した時代がありました。でも、もうそれは昔のことで、今やレースはロードカーの世界と別物なんだという認識でいました。しかし、そういう新しいシステムによってもう一度クルマ造りの実験室になってきていることは本当に面白いと思います。
友山: 世界ラリー選手権(WRC)は次世代ヤリス(ヴィッツ)のエンジニアが入って、ワークスラリーチームの代表のトミ・マキネンと一緒に開発をやってますよ。今のヤリスはWRCに勝つために造られたクルマではないので、マキネンが制約のある中で何とか一生懸命やっているんですけど、次のモデルは、ラリーで使うことを前提にサスペンションストロークをはじめ、いろいろな部分をレギュレーションの中で優位が持てるように織り込んでおこうと。
競技で勝とうとすると当然軽くしなきゃならないですよね。だけど、軽くすると弱くなる。強度が必要だからといって強くすると重くなる。重くなるとエンジンもブレーキもと、どんどん加速度的に重くなるんです。軽さと強さを両立させるためには、強くするところは強くしながら、しなやかな部分を持たせる必要があるんです。そういうノウハウはこれからの市販車にものすごく生かされていきますよ。
池田: それはとても楽しみです。友山さん、エンジニアの働き方改革の話はよく分かりました。ただTNGAって、トヨタ全体の強靭化ですよね? 事務方の人たちの働き方改革はどうなっているんですか?
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