地域活性化を阻害? 東海道本線はなぜ熱海駅で分断されているのか:不便を被る顧客(3/3 ページ)
東海道本線の熱海駅に訪れたことがある人はご存じだろう。下り列車で熱海まで行き、そこからさらに三島方面に乗り継ぐ場合、多くは階段を利用して別ホームに乗り換えなければならない。なぜこのようなことが起きてしまうのだろうか?
東海道本線の東京駅〜熱海駅間はJR東日本の管轄であるのに対して、同区間で並行する東海道新幹線の管轄はJR東海であるため、両社は競合関係にある。JR東海の立場からは、東京駅から三島駅への移動に東海道新幹線を利用してもらえば、同区間の運賃・特急料金のほぼ全額が同社の収入となる(他社発券手数料や東京山手線内の東日本への運賃分配については少額なため差し当たり無視する)。
一方、同区間の移動に「踊り子号」を利用されてしまえば、東京駅〜三島駅間の運賃・特急料金は、東京駅〜熱海駅間の距離と熱海駅〜三島駅間の距離の比率で分配されるため、その多くがJR東日本の懐に入る。従って、JR東海にとっては「踊り子号」よりも東海道新幹線の利用を促進する方がはるかに重要なのだ。
また、JR東日本にとっても、伊東駅・伊豆急下田駅へ直通する旅客を増やすことが重要である。修善寺発着「踊り子号」で三島駅方面を利用する旅客がいれば、JR東海に運賃・特急料金の一部を分配しなければならないからだ。消費者にとっては「同じJRグループ」であっても、「踊り子号」についてはJR東日本とJR東海の利害が完全に対立してしまう現状がある。
しかし、修善寺発着の「踊り子号」は中伊豆と横浜・東京方面を直結する列車であり、中伊豆および西伊豆の観光振興にとって重要な列車であると言える。報道によると、JR東日本は国鉄時代から「踊り子号」に使用する185系車両を引退させ、中央本線特急で運用中のE257系を転用する方針を固めたとされる。E257系への置き換え後も修善寺行きの運行が継続されるのかが気掛かりである。また、現在は185系で運行されている「ムーンライトながら号」の運行継続を危惧する意見もネット上で散見される。
熱海駅の事例に限らず、JRへの移行後、会社間をまたぐ在来線の直通列車は減少傾向にある。国鉄分割民営化から30年を経て、JR各社の採算重視の経営が消費者の利便性を損なっていないか、また地域間交流を阻害していないか、JR各社は今一度点検してほしい。信州ではJR東日本とJR東海が連携して、臨時直通列車を増やしている。JR会社間の直通列車やICカードの共通化は地域活性化にもつながる可能性がある。消費者の利便性向上や地域活性化に向けて、JR各社の連携に期待したい。
著者プロフィール
大塚良治(おおつか りょうじ)
湘北短期大学准教授
1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。江戸川大学非常勤講師(観光まちづくり論・地域経営論担当)、東京成徳大学非常勤講師(観光地理学担当)、松蔭大学非常勤講師(監査論担当)を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。
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