伊東温泉の現状から地方の観光地の縮図が見えてきた:わびしく見える温泉街の実情は?(1/3 ページ)
「伊東に行くならハトヤ! 電話はヨイフロ」というテレビCMをご存じの方も多いだろう。かつて伊東は温泉街として全国にその名を轟かせた。しかし最近、伊東を訪れた人々は皆、街に活気がない、寂れているという印象を持つ。その現状を探ってみたら日本の観光産業の縮図が見えてきた。
静岡県東部、伊豆半島の東岸中部に位置する伊東温泉。湯量は全国有数(毎分約3万1520リットル)で、静岡県では一番を誇る。中高年の人にとって伊東で思い出すのは高度経済成長期に盛んに放映されたテレビCM「伊東に行くならハトヤ! 電話はヨイフロ」だろう。この広告が伊東を有名にしたといって良い。
しかし、最近、伊東を訪れた人々は皆、街に活気がない、寂れているという印象を持つ。また、20キロほど離れた熱海温泉が観光客数のV字回復などと話題になる一方で、伊東温泉についてはあまり語られない。その伊東温泉の現状を探ってみたら日本の観光産業の縮図が見えてきた。
実は伊東の来訪者数はそれほど減っていない
伊東の交通の要である伊東駅は、JR東海道線・東海道新幹線の熱海駅からJR伊東線の電車に乗り継いで25分ほどだ。海岸沿いには熱海方面から下田につながる国道135号が縦断している。
JR伊東線はここが終点で、この先の下田までは伊豆急行線が走る。伊東市は広範囲で、伊豆高原地域のペンションや別荘地、城ケ崎海岸や大室山、小室山といった観光地にも恵まれている。川奈ホテルゴルフコースをはじめゴルフ場もこの地域には多い。
市内中心部の松川周辺が唯一昔ながらの温泉街の風情を残しており、かつて伊東の象徴とも言える老舗旅館「東海館」があった。木造3階建ての本格日本建築で展望室もある。経営難から1997年に廃業したが、風情を残していきたい伊東市が寄贈を受け、管理することとなった。約3億円をかけた大規模保存改修をして、現在は同名の観光・文化施設となり、館内見学のほか、週末だけだが入浴できる。
東海館の隣にも老舗旅館「いな葉」があったが、ここは主に外国人向けのゲストハウス「ケイズハウス伊東温泉」になっている。東海館同様、素晴らしい建物だ。
純和風木造建築の旅館の維持管理は修繕費がかかる上に、高級旅館としての料金の高さも影響し、経営が難しいのが現状だ。しかしながら、市内には宿泊施設は温泉旅館、リゾートホテル、民宿、ペンションなど約150軒ある。風光明媚で温暖、温泉は豊富で都心からも便利なめぐまれた観光地ではある。では、なぜ寂れた印象があるのだろうか。
伊東市の年間来遊客数は、2017年に約660万人。そのうち、宿泊客は約294万人だ。この数は熱海とほぼ同じ水準である。ピーク時の1991年には約895万人(うち宿泊客394万人)が訪れており、それと比べたら大幅に減っているが、1960〜70年代の高度経済成長期と大差ないのだ。来訪者数で見ると寂れたという状況ではない。
しかし、同市の観光協会、旅館ホテル協同組合、商工会議所を訪ね、意見を聞いたが、一様にして語られたのは観光客が街中を出歩かないということだ。伊東だけでないが、温泉街に社員旅行などの団体で宿泊し、夜に居酒屋やバー、スナックで飲み歩くといった様子はほとんど見られないし、芸者を呼ぶような客も激減している。今、伊東温泉の芸者は20人ほどだという。夜の接客業や花柳界は衰退していると言ってよい。
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