仕入れ目的でもカネのためでもない 東京の居酒屋が漁業に参入した切実な現状:三重・尾鷲で定置網漁(5/5 ページ)
東京で居酒屋チェーンを営む企業が三重県尾鷲市で漁業を始めた。その理由を探っていくと、日本の漁業が抱えるさまざまな問題が浮き彫りになってきた。現場を取材した。
「もちろん一部の魚は市場に出すこともありますが、今、定置網でとれる魚のほとんどは小さすぎるなどの理由で価格がつかないんです。しかし我々はそのような、値段のつかない魚も自分たちのお店に出すことができます。とれたてをすぐに加工して干物にしたり、サイズごとに小分けにして急速冷凍します。そして東京に運び、居酒屋のメニューになります。これなら本来市場価値のない魚もちゃんと商品にできるのです」
漁業部門が定置網漁でとってきた魚を居酒屋に納品する。上述したように、これまでゲイトでは年間7000万円以上の食品を仕入れてきた。例えばそのうちの半分を自社の漁業部門がとった魚に代替できれば、 漁業部門の経費は賄える。そして居酒屋には新鮮な、他のお店にはないメニューが並ぶというわけだ。
ゲイトの漁業への挑戦はまだ始まったばかり。現状、定置網でとれる魚も小さく、課題は大きい。今後は市場に魚を出荷して利益を上げることも考えているし、須賀利だけでなく、三重県の他の漁港でも漁業を展開するプランもある。
ゲイトが目指しているのは6次産業の成立だ。魚をとるところから、お客さまに提供するところまで自社で展開すること。それが安心・安全で美味しい食材を届けることにつながっていると考えているからだ。
そしてもう一つ、大事にしているのが現地にしっかりとお金を落とすことだ。漁業は居酒屋の食材を調達することだけが目的ではない。だから将来的に市場にも魚を卸すことも視野に入れているのだ。また、ゲイトのメンバーが須賀利に住み、住民の方々に手伝ってもらいつつ魚を加工する。地元の人たちと一緒に働くことで地域の経済は回り始める。それは地方創生の小さな一歩にもなっているのだ。
「誤解されがちなのですが、居酒屋の仕入れのために漁業を始めたのではありません。漁業も居酒屋もどちらも大切な事業。地方を元気にするため、そして日本のために必要なことだと考えています」
後編では、 漁業をゼロから始めるために、須賀利の現場に拠点を移した“漁業女子”の田中優未さんの活動を追う。
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