「障害者雇用の水増し」で露呈する“法定雇用率制度の限界”:「役所の非難」では何も始まらない(5/5 ページ)
複数の中央省庁が、障害者の雇用率を長年水増ししてきた疑いが浮上している。障害者雇用の現場で、一体何が起きているのか。自身も脳性麻痺(まひ)の子を持ち、障害者雇用に詳しい慶應義塾大学の中島隆信教授に、国と地方自治体による水増しの背景と、日本の障害者雇用の問題点を聞いた。
「水増し報道」きっかけに制度を見直せ
以上が中島教授へのインタビュー内容だ。
中央省庁や地方自治体が障害者雇用率を水増ししていたことは、確かに大きな問題だ。この問題は報道によって明らかになり、8月24日現在、厚生労働省は何も正式に発表していない。厚生労働省の担当者は筆者の問い合わせに対して、「各省庁の状況を現在精査している。できるだけ早くまとめて公表したいと考えているが、まだめどは立っていない」と話している。
各省庁で水増しの実態を調べ、関わった人事担当者を処分するといった対応だけでは、何の解決にもならない。まず水増しの実態を明らかにするとともに、役所で働く障害者がどのような仕事をしているのか、現在どれだけ仕事があるのかまで、徹底的に調査する必要があるだろう。
その一方で、中島教授の指摘から考えると、今回の問題は、長年の障害者雇用政策のひずみによってもたらされたものといえる。この機会に、数字だけを追い求めてきた法定雇用率の在り方も含め、政策を根本から検討し直すべきではないだろうか。
働き方改革が叫ばれる中で、障害者の働き方改革を置き去りにすべきではない。障害者雇用率の水増し問題は、いま日本全体の「働き方」を改革する必要性を示している。
著者プロフィール
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピックなど幅広いテーマで執筆。「スポーツ報知大相撲ジャーナル」で相撲記事も担当。HPはhttp://tanakakeitaro.link/
関連記事
- 金魚すくいにテレビゲームが「仕事」? “虚業”化した障害者雇用をどう変える
自身も脳性麻痺(まひ)の子どもを持ち、『新版 障害者の経済学』などの著作もある慶應義塾大学の中島隆信教授が、障害者雇用の問題点を指摘した。 - 松屋フーズ、ヤマト、KDDI、第一生命 先進企業に探る「障がい者雇用」の本質
2018年4月から障がい者の法定雇用率が引き上げられた。ヤマト運輸や松屋フーズなど「先進的」と呼ばれる企業は、障がい者の能力をいかに引き出しているのか。障がい者雇用の本質を探る。 - 「Amazonとは違う世界を」 古書店に眠る本を“検索”で蘇らせた元リコー社員
定年後を見据えて「攻めの50代」をどう生きるのか。新天地を求めてキャリアチェンジした「熱きシニアたち」の転機(ターニングポイント)に迫る。3回目は古書の検索サイト運営会社を起業した元リコー社員の河野真さん(62)。 - 二宮和也主演「ブラックペアン」で話題の手術支援ロボット 直腸がん手術「第一人者」に聞く
二宮和也が「オペ室の悪魔」と呼ばれるダークヒーロー役を演じる人気テレビドラマ「ブラックペアン」に登場する手術支援ロボットが、いま日本の医療施設に普及しようとしている。ロボットを使った直腸がん手術の第一人者である絹笠祐介・東京医科歯科大学教授に現状と課題を聞いた。 - 56歳で早期退職 元大手ITエンジニアが「介護タクシー」続けるワケ
定年後を見据えて「攻めの50代」をどう生きるのか。新天地を求めてキャリアチェンジした「熱きシニアたち」の転機(ターニングポイント)に迫る。第1回目は「介護タクシー」会社を起業した元大手ITエンジニアの荒木正人さん(70)。 - お金なし、知名度なし、人気生物なし 三重苦の弱小水族館に大行列ができるワケ
休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。その秘密に迫った。 - 「同一労働同一賃金」とは? 人事担当者必見の「働き方改革」用語解説
働き方改革関連法が可決・成立し、企業にも具体的な対応が求められます。企業の人事担当者が押さえておくべき「働き方改革」のキーワードをピックアップ。労働問題を扱う新進気鋭の弁護士が、用語の概念と企業が取るべき具体的な対策方法を解説します。今回は取り上げるのは「同一労働同一賃金」。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.