二宮和也主演「ブラックペアン」で話題の手術支援ロボット 直腸がん手術「第一人者」に聞く:ロボットとAIが変える「医師の働き方」(1/3 ページ)
二宮和也が「オペ室の悪魔」と呼ばれるダークヒーロー役を演じる人気テレビドラマ「ブラックペアン」に登場する手術支援ロボットが、いま日本の医療施設に普及しようとしている。ロボットを使った直腸がん手術の第一人者である絹笠祐介・東京医科歯科大学教授に現状と課題を聞いた。
二宮和也が「オペ室の悪魔」と呼ばれるダークヒーロー役を演じる人気テレビドラマ「ブラックペアン」に登場する手術支援ロボットが、いま日本の医療施設に普及しようとしている。
高精度の3D内視鏡を備え、超精密な手術が可能な手術支援ロボット「ダビンチ」(da Vinci Surgical System)は、米Intuitive Surgical(インテュイティブ・サージカル)社が開発した。従来の開腹、腹腔鏡手術の機能を提供しながら、数ミリほどの小さな切開部を通して手術が可能だ。外科医が3Dモニターを見ながら4本のアームを手術部に挿入し、まさに人間の手のように自由自在に操作できる。精緻な人体解剖図を作成した15世紀の発明家レオナルド・ダ・ビンチにちなみ、「ダビンチ」と名付けられた。
大腸がんの中でも難しいといわれる直腸がん手術を、「ダビンチ」を駆使して、5年で600件以上、手掛けてきた直腸がん手術の第一人者である絹笠祐介・東京医科歯科大学消化管外科学分野教授に、ロボット手術の現状と課題について聞いた。
日本はスタートラインに立ったばかり
きぬがさ・ゆうすけ 1998年東京医科歯科大学医学部卒業。01年国立がんセンター中央病院外科レジデント、06年静岡県立静岡がんセンター非常勤医師、10年同センター部長、17年東京医科歯科大学大学院、消化管外科学分野教授。東京都出身。44歳。
――「ダビンチ」を使った手術について、保険の適用範囲が広がってきているが。
診療報酬改定により、2018年4月から胃がん、肺がん、食道がん、心臓、直腸がん、膀胱がん、子宮がんなど12の術式において、ロボット支援手術に対して保険が適用されることになった。保険適用になる前は、9割以上が前立腺がんなど泌尿器科系の手術に「ダビンチ」が使われていた。また、自由診療においては直腸がん、胃がんの一部で実施されていたものの、数は少なかった。
ロボット手術拡大の流れは世界中で加速していて、もはや止められない。日本では、今回の保険適用の拡大によってロボット手術がようやくスタートラインに立ったところという感じだ。
「事故が起きたらどうしよう」 導入に慎重な日本企業
――「ダビンチ」は現在、世界と日本でどれくらい使われているのか。新しいメーカーの参入はないのか。
17年末の統計では全世界で4400台、日本は280台で米国に次いで第2位だ。最新の型式は第4世代で、価格は3億円もする。手術支援ロボットは米国のメーカーが独占している状況ではあるものの、日本からは川崎重工業などが参入し、2年以内に手術支援ロボットを製品化すると聞いている。
日本ではこういうチャレンジングなデバイスの開発に対して、事故が起こったらどうしようかなどといった慎重な土壌があった。だが、これからはもっと日本企業も参加してほしい。こうして新規参入が進めば競争も促され、安くて良い製品が出ることになる。
人工肛門の装着率を下げられる
――「ダビンチ」を使うことによる利点は何か。
患者へのダメージが少なく、入院期間が1週間程度と、開腹手術の半分以下で済むのは、内視鏡を使った「腹腔鏡手術」と同じだ。ただ、ロボット手術の場合は、神経機能障害を腹腔鏡手術よりも減らすことができる。
最も大きな利点は、「ダビンチ」で手術をすると、100%ではないものの、がんの取り残しを防いで、局所再発を防止できることだ。直腸がんは、これが最も大事な点だ。以前勤めていた静岡がんセンターにおける治療成績では、開腹や腹腔鏡手術と比べると、直腸がんの再発リスクは半分以下にまで減っている。
これまでは、肛門のすぐ上にある直腸がんの手術を受けると、約3割は術後に人工肛門を装着しなければならなかった。人工肛門を着けると、外出時に不安が残り、QOL(生活の質)に影響が出ていた。だが、われわれのような専門施設で手術をすると、人工肛門装着の比率が約1割に下げられることが、これまでの成果から分かっている。
また「ダビンチ」は、手と足を使うことにより、4本のアームを1人で動かせるので、助手などを使わなくても自分の思いのままに操れる。だから、手術がやりやすいのだ。腹腔鏡や開腹手術の場合は、ほかの外科医や助手を使いながらチームを組んで手術をするので、助手の技量に合わせなければならない。だが、「ダビンチ」の場合は全て自分でできる。手術にかかわる人数も減らせるのだ。
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