二宮和也主演「ブラックペアン」で話題の手術支援ロボット 直腸がん手術「第一人者」に聞く:ロボットとAIが変える「医師の働き方」(2/3 ページ)
二宮和也が「オペ室の悪魔」と呼ばれるダークヒーロー役を演じる人気テレビドラマ「ブラックペアン」に登場する手術支援ロボットが、いま日本の医療施設に普及しようとしている。ロボットを使った直腸がん手術の第一人者である絹笠祐介・東京医科歯科大学教授に現状と課題を聞いた。
従来の手術よりも神経障害が減らせる「ダビンチ」
――これまでの開腹、腹腔鏡手術と比較しての違いは。
ロボットでないと手術ができないわけではないし、ロボットを使ったからといって何でもできるわけでもない。ただし、手術に関してはちょっとした底上げになる。腹腔鏡で9割できるのが、ロボットだと9割2分できる。腹腔鏡だと神経障害が10%起きるのが、ロボットなら4%くらいまで低減できる。
また、腹腔鏡の場合は医者の得手不得手の差が大きく出てしまう。一方、ロボット手術では、長い目で見ると、この技量の差をなくすことができる。従って、教育の均てん化に役立つと思う。
――指導する立場になってみて、今までと違う点は。
上級の指導医になってくると、難しい手術を求められる。自分が何とかしてあげなければならないので、責任を強く感じる。「あの先生なら何とかしてくれる」という思いで来る患者や、ほかの病院では対応できない患者が紹介されてくる場合もある。当然ながら、立場が上がってくると責任が重くなるのだ。
「触覚」がないため事故のリスクも
――「ダビンチ」を使って手術をすると、手で患部を触っている触覚がないため、トラブルが起きることもあるそうだが。
確かに、触覚がないため、ロボット手術を経験して特性を十分に理解することが大切だ。経験を積めば、触覚がないことがデメリットにはならない。ロボット手術の有効性については議論されているところだが、安全性についてはそれほど問題ないことが、すでに世界的に報告されている。ロボットの事故が特に多いというわけではないものの、ロボット手術による事故はある。それは触覚がないことによるものもある。
医師が初心者の場合、触覚がないため、見えないところで臓器を損傷するリスクがある。見えていないところで器具が当たり、ぶつかっても分からないためで、見えないところでの動きも理解して手術を実施しなければならない。慣れない医師の場合は、画面全部を見ることも難しく、ぶつかっていても気付かないことがある。
テレビドラマ「ブラックペアン」では、「ダーウィン」と呼ばれる手術支援ロボットが使われる想定になっているが、手術中にアームの先に取り付けた鉗子が動かないトラブルが発生して大量出血が起きる場面があった。直接、目で手術部分を見るのと、画面を通して見るのとではかなりの違いがあり、それを十分認識して手術できるだけの技量が求められる。
韓国で見たロボット手術に感動
――ロボット手術をやろうと決めたきっかけは。
静岡がんセンターに勤務していた09年に、私は腹腔鏡手術で名前が売れていたので、韓国の大学で講演をした。その際に、ロボット手術を見学したのがきっかけだ。その時、手術をしていた外科医はあまり上手ではなかったものの、使っていたロボットの凄さに感動した。
帰国してセンターの院長に「ロボットを買ってほしい」と直談判した。すぐには通るとは思わなかったが、手術に理解のある院長だったので、当時では普通の病院としては珍しいことだが、11年に3億円もするダビンチを導入くれたのだ。それから、ダビンチを使ってロボット手術の腕を磨いてきた。
――ロボット手術を普及させるために若手の外科医に対して教育、指導に当たられている。「ダビンチ」を使って一人前の手術ができるようになるには、どれくらいの期間が必要か。
いろいろな病院がロボットを使おうとしている。だが、施設はあってもトレーニングする医師がいないため、始められないでいる。前週は3回も指導に出掛け、いまも毎週、指導をしている。私の指導はいま3カ月待ちの状態で、指導の方が大変な状況だ。
腹腔鏡手術と同じ時間でロボット手術ができるようになるには、50〜60例くらいの手術をこなすことが必要である。腹腔鏡手術を凌駕(りょうが)するようになるためには、もっと多くの手術経験が必要になる。慣れ親しんだ手術と、初めて実施する手術とでは全く勝手が違うので、ロボット手術の術式に慣れることが一番大事だ。
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