初の打ち上げ射場も 大転換を迎えた英国の宇宙産業:宇宙ビジネスの新潮流(1/2 ページ)
英国の宇宙産業が急速な盛り上がりを見せている。7月には同国初となる垂直打ち上げ射場の設置を発表。政府も同産業に対する高い経済効果を期待する。
英国初の打ち上げ射場をスコットランドに
英国ではここ数年、国内の打ち上げ射場およびその運用者の提案募集を受け付けてきたが、7月16日に大きな発表があった。英国初の垂直打ち上げ射場としてスコットランド北にあるサザーランド(Sutherland)が選定されたのだ。また同射場からの打ち上げサービス運用者として米Lockheed Martinとともに、英国発のベンチャー企業であるOrbexが選ばれた。
8月にサザーランドを訪れたビジネス・エネルギー・産業戦略相のグレッグ・クラーク氏は、宇宙産業が大変革期にあるとの認識を述べた。同国の場所、規制、戦略、産業エコシステムなどの優位性から2030年までに英国から2000機の衛星が打ち上げられることが予測され、また打ち上げ産業がもたらす経済効果は今後10年間で38億ポンドに上ると考えを示した。
2030年に世界の宇宙産業でシェア10%を目指す
ここ数年の間に急速に注目を集めつつある英国の宇宙産業だが、その歴史は古い。1962年にNASAと共同で人工衛星「アリエル1」を打ち上げ、米国、ソ連に次いで世界で3番目の衛星保有国になった。その後、国産ロケット「ブラック・アロー」の開発なども行ったが中止となり、探査機などの開発も独自では行ってこなかった。
転換点となったのが2010年に産業界から提出された「Space Innovation and Growth Strategy」だ。現在はニッチ産業である宇宙産業を戦略投資分野と位置付け、同年には司令塔となるUKSA(英国宇宙庁)が発足。長期目標として2030年に4000億ポンドと期待される世界の宇宙産業で10%のマーケットシェアを取ることを掲げた。極めて野心的な目標と言える。
小型衛星機器の輸出拡大
同国が歴史的に強いのが小型衛星産業だ。例えばClyde Space社は世界の小型衛星プロジェクトの約40%に部品を供給していると言われる。また英サリー大学からスピンオフしたSSTLは小型衛星分野の先駆者として有名であり、現在では欧州の航空宇宙大手企業であるAirbusのグループ企業だ。
政府はこうした宇宙産業の輸出促進を行うための「Space Exports Campaign」と言われる取り組みを始めている。特に規模と成長が期待される米国およびインド市場への英国企業製品・部品の輸出を拡大させたい意向であり、このあたりの動きにはEU(欧州連合)を離脱する英国の産業政策も絡んでいると思われる。
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