昨今、企業やスポーツ界でハラスメント問題が多発し、メディアで報道されることが増えています。ですが、ネットなどでは「イケメンであれば、わいせつな発言・行為をしてもセクハラに当たらない」などと冗談めかして語られることがあります。
容姿の良しあしは、本当にハラスメント行為の判断基準に影響するのでしょうか。杜若(かきつばた)経営法律事務所の向井 蘭弁護士に聞きました。
弁護士「もうハラスメントを軽視できない」
以前の私は、「ハラスメント」問題は重要であるとは思いながらも、個別の労働問題の1つの論点としか認識しておりませんでした。しかし近年、その様相が一変していることは、皆さんご存じの通りです。
マスコミでは毎日にように「パワハラ」「セクハラ」問題が報じられ、一般企業ばかりか、政界もスポーツ界も、その責任問題に揺れています。ここ数年で、ハラスメント問題に関する“社会の目”は、驚くほど厳しくなっていると言わざるを得ませんし、ハラスメント行為に対する国民の拒否反応は、年々強まるばかりです。
ハラスメントの定義〜「イケメンであればセクハラにならない? おじさんであればセクハラになる?」〜
一般的には、「ハラスメント」とは「嫌がらせ」「いじめ」といった意味を持ちます。また、加害者が意図的に行った行為か否かを問題にするというより、受け手側が不快な思いをしたかどうかが問題視されています。
ただ前述の通り、ネットの書き込みなどでは「相手が嫌がったら、ハラスメントに当たる」「それなら、容姿に好感が持てるイケメンであれば、性的な発言をしてもセクハラに当たらないのか」などの議論を見かけることがあります。
例えば、会社で「口紅の色、変わった?」というようなことを言われた場合でも、上司のAさんに言われた場合は「セクハラ」、イケメンの同僚Bさんなら逆に「うれしいのでセクハラに当たらない」といった論理がまかり通っているようです。
あくまで「平均的な受け手」がどう感じるか
しかし、法律家の立場から言えば、これは大きな誤解です。ある行為がハラスメントにあたるか否かの判断基準は、あくまで「平均的な受け手」がどう感じるかになります。
厚生労働省 都道府県労働局 雇用均等室が公表している、判断基準に関する指針(「セクシャルハラスメント対策に取り組む事業主の方へ」)にも、以下のように記されています。
「男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると、被害を受けた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし、被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当です」
何をもって「平均的」と判断するかは難しい問題ではありますが、行為者の容姿ではなく、その行為を受けた「平均的な受け手」がどう感じるか――という観点が、法的な判断基準になることは知っておくべきです。
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