なぜ働き方改革はうまく進まないのか:働き手の心理から探る(3/5 ページ)
国を挙げて日本が取り組んでいる働き方改革。しかし、8割を超えるビジネスパーソンが働き方改革を実感していないというデータがある。これが日本の働き方改革の現状ではないだろうか。では、なぜ働き方改革はうまく進まないのか?
3.成功事例偶像化:一部の成功者だけが為し得るものと思っている
戦意喪失と勇者待望論が複合的に作用すると、「いやあ、こんな改革がうまくいくのは○○社さんだからですよね」「やっぱり○○さんは成功者だから、違いますね」と、自分とは違う人たちの為せる業として線を引きたがる。
これは説明する事例側にも一定の責任はありますが、まるで偶像化するように対象をとらえ、成功事例と自らの現実とのギャップを過度に感じてしまい、どうすれば自分や自分の組織で応用・実現できるのか、その思考が停止してしまう。
とにかく日本人は事例をほしがります。二言目には「事例を見せてほしい」という話になります。事例は確かに参考になるものですが、「その事例から何を学ぶのかという視点」が提供する側にも受け取る側にも欠けているため、ケーススタディではなくただのケースになっている。そんなシーンがほとんどではないでしょうか。
事例を偶像化することは、時に「うまくいくための何か特別な魔法のようなものがある」という思い込みにもつながります。このことも事例をほしがる要因になっているのでしょう。
変革をはばむ免疫機能
これらの心理はどのようなものと理解すべきでしょうか。
いくつかの見方があると思いますが、例えばWORKMILL創刊号で取材した発達心理学者のロバート・キーガン教授は、著書「なぜ人と組織は変われないのか」で、変革を阻む免疫機能と表現しています。「自分の核となる部分を守ろうとする結果、自分自身が望んでいる目標の達成を妨げてしまう」この機能。キーガン教授は「恐怖の源」に対処する不安管理システムこそが、変革を阻む免疫機能の正体だと述べています。このシステムが免疫のように機能する結果、人が不安に対処しながら多様な局面にうまく対処できるようになるものですが、以下のようなメカニズムで変革を阻んでしまうことになります。
「しかし、このシステムの恩恵を受けるためには、代償を払わらなければならない。視野が狭くなり、新たなが学習が阻害され、特定の行動が取れなくなってしまう。その結果、実現したいと本当に思っている自己変革が妨げられるケースがある。変革を成し遂げればもっと高いレベルの行動を取れるようになるとわかっていても、自分を変えられないのだ。――「なぜ人と組織は変われないのか」(P69)
その組織で過ごした年月が長くなればなるほど、数多くの不安に対処することになるはずですから、おのずと不安管理システムは複雑で強固なものになります。就職活動時に熱意をもって活動し、理想に燃え血気盛んに入社する若者が、みるみるうちにまるで牙を抜かれたように組織に染まっていく。その組織に暗黙知的・形式知的に存在する不安管理システムをインストールしていくことで、安心して組織の業務に対応できるようになる。
まさにこれこそが成功体験そのものと言い換えられそうです。決められた業務を効率良くこなしていくには極めて都合の良い機能ですが、その成功体験を外れた新たな変革に対しては守りの姿勢になってしまったり、変革の抵抗勢力になってしまったり。事例を見たくなるのも、「まだ我々のことをおびやかす事例は存在していない」と安心したいからという心理かもしれません。なかなか悩ましいジレンマです。
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